【3】ふーちゃんといっしょ
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1時間経過した頃、ゼクシオンは青猫からの情報を記したメモをまとめながら、ソラの世話をしていた。
相方には、不足分を賄うために、再度買い出しに行かせた。
「あー、うー、きゅま~」
「はいはい、白コグマさんですよ~」
大分、ソラの性格を把握してきたゼクシオン。ぬいぐるみをチラつかせながら、ソラの遊び相手をしている。
その傍ら、少し開いている扉の隙間から、こちらを覗き見している者にチラリと視線を移す。
「ヴィクセン、仕事は片付いたのですか?」
「ぐっ…いっ、一応な…」
「そうですか。…でしたら、こちらの手伝いをしてくれると有り難いです。
僕一人だけだと、心許ないので…」
「ふ、ふむ…仕方がない。それでは、先輩として色々と手伝ってやらねばならぬな」
ゼクシオンの言葉に気を良くしたのだろう、ヴィクセンは彼の頼みを引き受ける事にした。
扱いやすい人だ、と首を竦めながら思った。
ヴィクセンが、二人の所へ近づこうとした途端、ソラの表情が曇り始める。
「…ヴィクセン、試しに一歩戻ってください」
後輩の言われるままに、一歩足を戻すとソラの顔は普通にも戻る。
再度、一歩進むと泣きそうな表情に変わる。
先ほどの一件で、相当ヴィクセンに警戒心を強めているのだろう。
「ヴィクセン…とりあえず、その場に座っていただけますか」
「うぅ…分かった」
不服そうな顔をしながら、ヴィクセンは少し離れた床に座り込む。
さて、どのようにすれば、この科学者に対する怖い感情を解きほぐす事が出来るのか…。
その解決方法を考えていると、買い出しに行ったレクセウスがちょうど戻ってきた。
「…ただいま…どうした? ゼクシオン、ヴィクセン」
2度目の大量の荷物の入った紙袋を片手で、軽々と持ったまま、二人に問い掛ける。
事情を話すと、レクセウスは無言で紙袋からある物を取り出す。
それは…可愛らしい絵柄が表紙の絵本だった。
「これを読んでやれば、少しくらい警戒が解けるのではなかろうか……?」
「音読ですか…ヴィクセン、試しにこれを読んでみては如何ですか?」
その何冊かある絵本の中から、取り出した作品をヴィクセンに手渡す。
ヴィクセンは、複雑な心境ながらもその絵本を手に取りながら呟く。
「仕方ない…やってみるか」
こうして、ヴィクセンの絵本の音読が始まった。
「…そして魔女は、人間になるための薬をあげる代わりに、姫にある条件を言いました。
『対価としてお前のその美しい声をいただくよ、ヒヒヒッ!』」
「おぉ~」
絵本を音読して始めてから、早数時間…。
かなりそれに慣れてきたのか、ヴィクセンは絵本を真剣に、丁寧に、キャラの一人一人の台詞を感情を込めて読んでいる。最初は、苦い顔をしていたソラは今では、目を輝かせながら、ヴィクセンの音読に夢中で耳を傾けている。
「……ヴィクセン、表情が一変していますね」
「結構、ハマり役になっているな」
仲間のあまりにも生き生きした表情に、ゼクシオンとレクセウスは少々、冷や汗をかいている。
「はぁ、これで終わりだ」
「ちゅぎ、こりぇ~(次、これ~)」
絵本を読み終えたばかりのヴィクセンに、ソラが別の絵本の催促をする。
「ふむ、よかろう…だが、ソラよ。少し休ませてくれないか? 先生は喉が乾いてしまってな」
「あーい、しぇんしぇ~(はーい、先生~)」
「ソラちゃんに自分の事を『先生』と呼ばせていますよ…あの人」
「まあ、いいのではないか?」
仲間の幼児に対する接し方に、些か呆れているゼクシオン。
それを、レクセウスは内心は同調しながらも、大目に見てやれと宥める。
「レクセウス、お茶をくれ!」
「…承知した」
すっかり上機嫌の同僚からの指示に、レクセウスはそつなく返答する。
その時、ソラが泣きそうな表情になっているのをゼクシオンは見逃さなかった。
「うっ…うぅ…」
「ソラちゃん、ちょっとすみませんね~」
すぐにおむつを確認すると、案の定、おむつに描かれている絵柄が水色に…
これは、おしっこをした印で、取り換えサインである。
最近の紙おむつは、こういう細かな工夫がされているので、幼子のいる世帯には非常に役に立つ、親切な優れものだ。ゼクシオンは、その濡れた紙おむつを取り外し、脱脂綿を濡らした物でお尻などを拭き、それから新しい物に取り換える。
この短時間で、ソラが何を求めているのか、少しずつであるが、分かるようになってきた…。
「あぅ~」
「よし、これで大丈夫です」
「大分、手慣れてきたな」
お茶を啜るヴィクセンの言葉に、ゼクシオンはどこか得意げに笑みを浮かべる。
「何事も経験を積む事で、人は成長するのですよ」
「…生意気言いおって」
「…だが、事実だ」
三人が語り合う空気は、最初と比べてどこか穏やかなものが漂っている。
その様子を「ふぅ~?」と小さな首を傾げながら、ソラは不思議そうに見つめていた。
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