【14】夏は事件がいっぱい!
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「貴女の言い分をさっきから聞いていたけれど…単なる子どもの我儘にしか聞こえなかったわ」
「なっ…なんですって!」
「要するに、貴女はこう言いたいのでしょう?
『ガイアスを寝とったどこの馬とも知れぬあばずれ女の分際で、おこがましいにも程がある。てめえの結婚式に泥を塗れば、各部族の長も
エレンピオスの野郎どもからも白い目で見られ…赤っ恥をかくはずだ。手始めにカナン饅頭なんてふざけた商品を使いものにできねえようにすりゃいい。
そして、部下の奴らを使って、結婚式をぶち壊せば、こいつの信頼は失墜するだろ。最終的に毒薬でも飲まして殺って、身体をバラして
寒い雪原へ放り投げて魔物の餌にしちまえばいい。証拠は残らねえし、私のうっ憤も晴れる。悲しみに暮れるガイアスに寄りそえれば…後は完璧』だとね」
「……ッ!?」
多少汚い口調も織り交ぜて、スラスラとおっかない言動で返したカナン。
しかし、そのやけに詳細かつ恐ろしい内容を、カナンが口にした途端、令嬢の表情は一気に氷点下の湖に落ちたように、青ざめていく。
「…いつから、気付いてたんだい? このお嬢さんの恐ろしい計画に」
そのやり取りに自然と参加するように、普賢が憂いのある表情で尋ねる。
「結婚が正式に決まった日。この人の従者と思われる人が不穏な動きをしていたの。見つけたのはプレザさんだったけど…それで彼女が問い詰めたら、
あっさりと白状してくれたわ」
カナンは、何ともないと言わんばかりの表情で答えた。
その事実に、アグリアは勿論その場にいた人達全員が絶句する。
「部下を捕まえたとしても、証拠が上がらない限り、完全に『黒』にできないでしょう? だから、様子をうかがっていたの」
「じゃ…じゃあ、アナタ、最初から…」
「今回の被害は饅頭だけすんだ…だけだと思ってないでしょうね。言っておくけど、貴女…一つ間違えれば、城を放火していたわよ。
私だけじゃなく、城に仕える兵士や使用人、謁見にきている何の罪のない人々さえも巻き添えになっていたかもしれない。
私だけを暗殺するなら、暗殺者を雇えば済む事だったでしょうに…。自ら手を下そうとしたのは、ある種のプライドから?
それとも泣き喚き、醜く殺す予定だった私を高みの見物をしながら、甲高く嘲笑いたい自己中心的な欲求があったからかしら…?」
カナンは、ジリッと前へ進み、膝を落としている令嬢を見下す。
令嬢はガタガタと戦慄していた。
こちらを見下ろしているのは、忌々しいはずの女なのに…なのに…。
「私を狙うのならまだいい。でも…この国やエレンピオスの人達に危害を加えるようなら…容赦しないわよ?」
この瞬間、令嬢は酷く後悔した。
自らが狩ろうとしていた人物が…自分では絶対敵わない相手だとようやく実感したからだ。
「…あら、もう何も言わないの? 反論があるなら今のうちに言っておきなさい。そのうち、喋れなくなるのだしね」
令嬢は唇をぶるぶる震わせる。
寒さからではなく、真顔のカナンが放つ威圧に押されつつあるのだ。
彼女は首に手をかけていないのに、首元が圧迫されているかの如く、上手く息が出来ない。
次第に、呼吸が困難になり、酸素を求めようとしても息を吸う事が出来ない状態になりかかっていた。
「はい、そこまで」
やんわりとした口調で、普賢が待ったをかけた。
「その辺にしておかないと…ちょっとやりすぎだよ」
「…そうですね。事件はもう終わったし、この位でいいでしょうね」
カナンが覇気を止めて、令嬢の方を振り向くと、既に彼女は口元から泡を出して気絶していた。
すかさず、ウィンガルが兵士達に「連行しろ」と迷いもない声で命令する。
「ねーねー…あのねーたん、メッされるん?」
最早、抵抗する意志さえくじかれた犯人が連行されるのを見ながら、ソラは普賢とカナンに訊いた。
『メッされる』とは、どんな御仕置きされるの…という意味だ。
「こればかりは、ガイアスと他の重鎮達が話し合ったうえで判決を下すでしょうね」
「カナンさんは?」
「あの犯人がどんな罰を受けようと、私は構わないわ。例え軽い刑になっても、自らが犯した罪は消えない。もしも、釈放されたとしても
彼女にとって、心休まる日はこないかもしれない…」
なるほど、と普賢は納得した。
ア・ジュールでは、部族間の繋がりを重視する一方、規律に反した者には容赦ない鉄槌をくだす傾向が強い。
仮に、一族の長の身内だとしても、現在の国家元首の婚約者を殺そうとした事実は死罪に相当するものだ。
ガイアスが、そんな判決を下す事はまずないだろうが…おそらく、あの令嬢は解放されたとしても、一族から弾き出される。
勘当されるだけならまだしも、彼女の家族や部族は一生、他の部族から「正妃殺し未遂の娘を輩出した一族」という汚名で白眼視されていくだろう。
最早、一族もろともリーゼ・マクシアを追放されてしまう方が幸せなのでは…と思う位に。
「可哀そうに…と思った?」
「ちょっとだけ。でも、それ以上に君の御饅頭を丹精込めて作った料理人の人々の苦労が報われない事が悲しい。半分以上ああなっちゃったし…」
普賢がみる先には、灰となり、水でふやけてしまった饅頭の残骸だ。
ワンダニャンが美味しく食べて、胃袋(?)へ吸収されたものは敢えてカウントしないでおこう。
すると、カナンは一息つくと、お付きのミリアに向かってこう言った。
「ミリアちゃん、厨房へいくから…業務用のエプロンを用意してくれる?」
「はっ…はい!」
「どうするつもりなんだい?」
普賢は不思議そうに尋ねると……
「商品発売は明日だけど、まだ10時間程の猶予があるわ。今からでも増産する事が出来る…料理人の人達もこれから忙しくなる、
少しでも、生産が追い付く様に、私も手伝うんです」
事件の事で落ち込む気配もなく、いや…そんな不安要素を一気に吹き飛ばすくらいの笑顔でそう答えた。
「じゃあ、僕も手伝おうかな」
「助かります」
「ふーたんもー!」
「じゃあ、ふーちゃんは味見係をお願いね」
「あーい♪」
こうして、カナン饅頭損害事件は幕を下ろした。
その翌日、ア・ジュールの各店で新商品の饅頭が店頭に置かれており、それを購入しようと長蛇の列が並んでいた、と巷の主婦がそう証言している。
・
