【3】ふーちゃんといっしょ
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その5分後…レクセウスが大荷物を両手に帰ってきた。
「お疲れ様です。レクセウス」
「……ヴィクセンは?」
「仕事に戻りましたよ。興味があるなら、またこちらに戻るかもしれません」
「そうか…」
ゼクシオンの説明に、自分がいない間に何があったのか、レクセウスは察した。
それに対して敢えて、深く問い詰めないのが彼の長所でもある。
一旦休憩しようと、紙袋に詰めた荷物を、床におろそうとした時…ソラが泣きだした。
「うぅうぅぅ…ふぇえええ―――!」
咄嗟に、ゼクシオンはソラを抱きかかえながら、あやし始める。
「よしよし…何で泣いているのでしょうか?」
彼は赤子の世話をした事はない。それは近くに居る相方も同じ…。
初の経験であるため、対処方法が分からずに戸惑ってしまう。
そんな彼らの気持ちに関係なく、ソラの泣き声はどんどん大きくなる。
「ふぇええ、うあああ―ん!」
「ああ~、よしよし。いい子ですから…
レクセウス! 済みませんが、ちょっと交代してください」
「ああ」
ソラを相方に任せると、ゼクシオンは机の上の携帯電話を取り、ある人物に電話をかける。
―――――プルルルル
『はい、こちらカフェ・レストラン【ムーンライト】でございます』
「お忙しい所、失礼いたします。私、そちらのオーナーのコゼット様とお話がしたいのですが…」
『申し訳ございませんが、只今オーナーは席を外しております』
「それでは、【異世界なんでも相談事務局】の青猫様をお願いできますか?」
『はい、少々お待ちください』
ゼクシオンは、リエの娘であるコゼットに電話をかけようとした。
以前、リエからの手紙で、コゼットがしょっちゅうソラの世話を担当していると、記述されていたから。
しかし不在との返事を聞き、咄嗟に思いだしたのが、二階に事務所を構える青猫の存在である。
訊いた話だと、彼もまた子育て用の猫型ロボットらしい。
それなら、自分以上に赤ん坊の事をよく理解しているはずだ。
『はい、大変お待たせしました。僕、ドラ…いえ【青猫】と申します』
それから1分後、青猫が電話に出た。
もう本名は大部分の人にバレているのに…
いちいち仮の名前を言う必要があるのだろうか、と内心突っ込みたい。
だが…今はそれどころではない。
「ご無沙汰しております、青猫さん。以前そちらでお世話になりました。ゼクシオンです。」
『ああ、久しぶりですね。ゼクシオンさん』
「すみませんが、単刀直入に伺います。
現在、諸事情により、知人の赤ん坊の世話をしているのですが、急に泣き出してしまいました」
『赤ちゃんですか…?』
「はい、このような経験は初めてなもので…少々頭の整理がつかないんですよ」
そう、この組織には10歳以下の機関員はいない。
ましてや、育児専用の雑誌は置いていない。
それに、テレビやインターネットの電気機材は先の大戦の際に破損してしまい、現在修復を進めている段階だ。
情報がほとんどない上に、突然の出来事に混乱してしまい、冷静に物事を思案できない状態だ。
『ゼクシオンさん、まずは紙おむつが濡れていないかどうか確かめてください』
「分かりました」
青猫からの指示に従い、ゼクシオンは携帯を椅子に置くと、すぐにレクセウスに服を脱がすように言った。
レクセウスは、ねこにんスーツをソラの身体から丁寧に脱がして、おむつを確かめる。
「…濡れていないようだ」
ゼクシオンは、それを聞くとすぐに携帯に向かってその事を伝える。
『それじゃあ、お腹が空いているんだと思います。その部屋に粉ミルクとかありますか?』
「粉ミルクですか…」
「…あるぞ」
レクセウスは、先ほどの購入物の紙袋の中から、赤ちゃん用の粉ミルクの缶と哺乳瓶を取り出した。
『ミルクの入れ方も教えましょうか?』
「そうですね、よろしくお願いします」
携帯からの青猫の声を聴きながら、ゼクシオンは指示通りにミルクを作っていく。
『必要な材料は揃えましたね、まず手を洗ってください。その次に水を80℃以上に温めて…』
「はい、次はどうすれば…」
その様子をソラをあやしながら、傍らで見ているレクセウスは、相方の作業を見守る。
『…計量スプーンで必要量のミルクを入れましたね? それを振って粉ミルクを溶かしてください』
「は、い、その次はどうすればいいんですか?」
哺乳瓶を一生懸命振りながらも、ゼクシオンは次の指示を尋ねる。
その間も、ソラの泣き声は絶えず、部屋全体に響き渡る。
『ん…? そちらにいる赤ちゃんの声、どこかで…?』
「それよりも、早く次の指示を!」
『あっ、すみません』
「びぇええええ――! まま~、りったん~!!」
「ほら、よしよし…」
その時、自室に居るゼクシオンとレクセウスは知らなかった。
ソラの泣き声が、まるで超音波の様に、部屋を中心に周囲の伝わっていた事に…。
エクレシアは、能力のひとつとして、自らの『声』にある種の力を込める事が出来る。
まだ幼いけれども、ソラもその先天的な能力は授かっているのだ。
しかし、彼女はまだその術の制御を知る由もなく…
不機嫌な『感情』の力を、その泣き声に込めてしまい、それが爆発的な威力を発した。
それは、休日で熟睡中のアクセルの目を、一瞬にして覚まさせ……
最新曲を演奏していたデミックスの【シタール】を分解してしまい……
研究を片づけていたヴィクセンの薬剤を徐々に蒸発させ、気体へと変化させてしまう等、様々な現象を巻き起こす。
「ッ~、なんだよ、このデカイ振動は…」
「ギャ――! お、オレのシタール――!」
「なっ…なんだ、一体何が起こっている!」
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