【3】ふーちゃんといっしょ
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世話役の三人は、ロビーからこねこにんを連れて、別の部屋へ移動することにした。
長い廊下を、ヅカヅカと大股で歩を進めるヴィクセンは歯軋りをしながら、他の機関員の愚痴を言った。
「まったく…最近の若者は嘆かわしい!
そもそも、赤ん坊という者は母親が世話するのが当たり前だろうがッ」
「その考え方は偏見ですよ、ヴィクセン。
最近は、父親も積極的に育児に参加するのが当然の風潮になりつつあります」
「分かっとるわ! ラクシーヌめ…あの女、さも我々が研究に関してはプロの癖に、育児はド素人だという目付きで嘲笑いおって…!」
「だが、事実だ」
ソラを抱きかかえているレクセウスが、ボソリと呟く。
一般人よりも遥かに背が高い彼に抱いてもらっているソラは、高い視点から辺りを見渡せる状況に、「おぉ~」と目を輝かせて、はしゃいでいる。
ジタバタと動くこねこにんを、レクセウスは宥めるようにさする。
「さて…この子を誰の部屋に連れて行きましょうか?」
「私は断固拒否するぞ! 部屋には大事な書籍、研究関連の道具があるんだ!」
「別にあなたの処で世話をしろ、とは一言も言ってませんよ。
寧ろこの子の身に危険が及ぶ可能性が高いので、避けた方が賢明だと思いますね」
「ぜっ…ゼクシオン、きさまぁ~」
後輩からの癇に障る言動に、ヴィクセンはこめかみに青筋を立てて怒鳴ろうとするが…
レクセウスからの厳しい視線でそれを止める。
「いい加減にしろ…ソラが泣きそうだ」
彼の言う通り、ソラは不安そうな面持ちで瞳にウルウルと涙を溜め込んでいる。
……下手をすれば、今にも大声で泣きそうな雰囲気だ。
「赤ん坊は、大声や些細な喧嘩事にも、敏感に反応する…気をつけろ」
「くっ…とっ、とりあえず、部屋を決めるぞ」
「そうですね・・・」
慎重に話し合った結果…ゼクシオンの部屋で面倒をみる事に決まった。
「やれやれ…結局、僕の部屋になりましたか」
「文句は言わせんぞ、ゼクシオン。公平な方法で決めたのだからな!」
「…ジャンケンでな」
本棚に分厚い書籍をキチリと収納している、清潔感ある部屋…。
レクセウスは、ソラを簡易ベッドの上に慎重に置く。
「…今は大丈夫そうですが、何時迎えが来るのか分かりません。
念のため、赤ちゃん用の食事・オムツの類を購入した方がいいですね」
「俺が行く…」
レクセウスはそう言うと、闇の回廊で赤ちゃんの必需品を買いに行った。
「…しかし、ソラは一般の赤ん坊と比べるとかなり大人しいな」
「個人差はあると思いますが…
確かにあの強面の大人達がいる状況下で、平然としていたのは凄いと思います」
さりげなく、他の先輩方の嫌味とも取れる発言を洩らすゼクシオン。
ヴィクセンは、屈んでベッドの上にちょこんと座っているソラと視線を合わせる。
「まだ幼児にも関わらず、【エクレシア】と認定されているとは…興味深い」
科学者の性(さが)なのか、ヴィクセンは好奇心に満ちた瞳で、目の前のこねこにんに触れようとした。
その時、ゼクシオンがそれを制止させる。
「止めなさい、そのような眼を向けて…彼女が怯えていますよ」
彼の言う通り、眼前の科学者に対して【恐怖】の念を持ってしまったのだろう、
ウルウルと目尻に涙を溜め、それが零れそうになっている。
それを見て、ヴィクセンは「うっ…」と躊躇い、触れようとした手を留めてしまう。
「あなたは無理に参加しなくてもいいのでは?
僕とレクセウスが面倒みますので、研究に集中したら如何ですか?」
ゼクシオンは冷淡な口調で、育児よりも自分の仕事を優先するように勧める。
彼の言葉は理にかなっている。
なぜなら、このまま先輩であるヴィクセンがこの場に居座っても、あまり役に立たなさそうだからだ。
根っからの研究好きが祟り、こねこにんの印象を悪くしたのもある。
だが、それ以前にこの男は仕事の残りの件を気に掛けている…それが問題なのだ。
彼の場合は、複数の業務を交互にこなすよりも、ひとつのものを終了させたら次に移る
…所謂、集中型のスタイルだ。
長い間、研究仲間として付き添ったゼクシオンはそれをよく理解している。
彼の脳裏から、【研究】の文字が自然と消えない限り…
いや、残存する仕事を片付けない限り、育児に集中できないのは明白だ。
言われた張本人はというと…
怒鳴ろうと口を開こうとするが、ソラがいる手前…反論の言葉を言えずにそのまま口を噤んでしまう。
「フン、それではその言葉に甘えて…私は帰らせてもらう!」
「どうぞ、ご自由に…」
ギリッと歯を噛みしめながら、彼は乱暴にドアノブを回すと、バタンと大きな音を立てて立ち去った。
嵐が去ったことを確認すると、ゼクシオンは改めてソラの方を振り向く。
「もう大丈夫ですよ…怖いおじさんは出て行きましたからね」
冷淡な表情から、柔らかさを含んだ穏やかな面持ちとなり、フードのとれたソラの頭を軽くポフポフと撫でる。
言葉の意味をなんとなく察したのだろう、ソラは涙が止まり、にこっと笑顔に変わる。
「あんがと~(ありがとう~)」
「いいえ、どういたしまして」
相手に感謝の言葉を言う所は、幼いながら礼儀が行き届いている。よほど、世話係の躾がいいのだろう。
感心しながら、ゼクシオンは自分の机の椅子に座り込む。
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