ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


「リゾット…」


プロシュートは怒を孕んだ声音で、命令口調で名を呼ぶ。

ロビーの空気が一瞬にして、糸を張ったような緊張感に包まれる。

場数を積んでいる者達は、日常茶飯事と言わんばかりにその状況を静観しているが、まだ新米のペッシは顔色を蒼白にしてビクつく。

殺気に敏感なソラもふぅ…と不安そうに周りにいるメンバーをみている。


「ミーチョ、こっちいこうか」

「この空気は、ガキにはきついからな」


そんなこねこにんの様子を察したのか、金髪の男性のジェラードが優しげに声をかけ、親友で黒髪の強面の男性、ソルベと一緒に別の部屋へ連れていく。


「よーし、それじゃあ心置きなくリーダーへ聞きたい! あのシニョリーナとどういう関係なんだい?」


彼らがでていくのを見計らうと、メローネがあっけらかんとした様で質問する。

相変わらず高圧的な態度を崩さないプロシュートと比べたら優しい口調だが、リゾットを映し出すその瞳は好奇と共に冷徹さも含まれている。

他のメンバーも、早くリーダーの口から訳を問いただしたい。


“あの女は誰だ?”

“アジトに連れてきた理由は?”

“チームに何のメリットがあるのか?”


言葉なき、メンバーの心の声を感じ取ったのか、リゾットは沈黙をといた。


「『眠り姫』の噂を知っているか?」


その言葉に、心当たりがあると反応する者もいれば、さっぱり解らないと肩を竦める者もいる。

リゾットは語りだした。

眠り姫…フィンの事を。

そして、リゾット自身がなぜ、彼女を引き込もうとしているのかを。


◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇


異空の園でフィンと再会を約束したその後、彼女は何者かの手により攫われてしまった。

13機関からの速報を聞き、空条承太郎は急いで異空の園へ駆けつけた。

フィンが封印されていた結晶石は、ボロボロに砕け散り、大小の残骸が地面にあちらこちらに落ちている。


小さな欠片を一つまみする承太郎。

指に触れると、ひんやりと冷たい感触がした。

つまり、結晶石は氷と同じ温度だったという事。

そんな氷点下の空間に、フィンは9年間も自らを封印していたのか…と顔を顰める。


結晶石は、エクレシアの力を集約した石である。

攻撃や治癒、防御…そのエクレシアの得意とする能力が凝縮されており、一般人でもそれを装着すれば、戦えるようになれる物だ。

これを、悪用する者達…そう、あのDIOの残党や裏社会の連中…が手にすれば、非常に厄介だ。

なにせ、大小含めてこれだけの数だ。

下手をすれば、恐ろしい武器へ変貌してしまうのは間違いない。


共にきていたSPW財団の研究員が回収を急いでいる。

その中で、砕け散った結晶石を悲しそうに見つめている親友の姿がいた。


「フィン……なんで、こんな事に…」


震える手をギュッと拳を作り、悔しさを抑えようとしている花京院。

つい半刻前に楽しく会話をしていたはずなのに…彼女は誰かに誘拐されてしまった。

沈痛な面持ちの彼に、他の職員達は同情しており、かける言葉さえも見つからない。


「しけた面してる場合かッ!」

「……ッ!」


承太郎が怒鳴り声をあげた。

彼のその一言で、花京院はハッと振り返る。


「あいつは死んだわけじゃねえ。どこかにいるんだ…うじうじ悩む暇があるなら、とっとと行動に移すぞ」

「そうだね…うん、そうだ。後悔しても現状は変わらない」


心に動揺を振り払えていないものの、花京院は叱咤するように両手で自らの頬を叩く。

親友が一応、冷静さを取り戻せたのを確認すると、承太郎は帽子の鍔をさげて、背を向けてきた道を歩き出す。

「ありがとう…」と花京院は小声で礼を言うと早足で彼に追いつき、共に歩を進めていく。


「情報が少ない。まずは13機関と接触を図るぞ」

「ああ、そうしよう!」




【行動開始…もちかけられる対価】




町が闇夜に同化し、誰もが静まり返った深夜。

薄らと明かりがともる部屋に、フィンはいた。

椅子代わりに簡易ベッドに腰を下ろしている。

向かい合っているのは、自らをこのアジトに連れ込んだ張本人…リゾット。


「リゾットさん…私を此処に連れてきた理由を教えてください」


多分、善意だけで自分の13機関の追跡から救い出してくれた訳ではないのだろう。

彼…いや、彼の所属する裏社会の組織が抱えている問題に、自分がメリットになるから…連れてきた。

フィンはそう推測した。


「フィン……俺はお前をあの黒コートの連中から引き離した。今度は、お前が借りを返す番だ」

「…私に何をしろ、と?」


正直に言うと、逃げる事は可能だ。

しかし、同じエクレシアであるソラがこの組織にいる以上、見捨てる事なんてできない。

ソラは、フィンにとって大切な存在でもあるのだから。

眼前の黒目の男性は、どんな要求をしてくるのか…?

怖い気持ちも漂うが、同時に覚悟を決めなくては…と、真剣な表情で相手の回答を待つ。


「単刀直入に言おう」


すると、次の瞬間…リゾットはフィンの顎を手を掬うように掴んだ。

顔を強張らせるフィンに対し、耳元に唇を寄せて、リゾットは渋みのある声でこう囁いた。


「フィン……俺と《契約》を交わせ」





【つづく】

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