ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


フィンは夢を見た。

そう…DIOがまだ生きていて、プッチと共に自らの住処に訪れていた頃の事だ。


『エクレシアは、隠遁生活をするのが主流なのか?』


DIOは、差し出されたシフォンケーキをフォークでつんつんと突きながら疑問を投げつけてきた。

行儀悪いよ、と隣で軽く窘めるプッチを気にかけずに、金髪の美しい吸血鬼はさらに言葉を続ける。


『エクレシアは、常に世界の動向を見つめている。時に、世界に仇なす者を改心させ、時に、世に多大な影響力をもたらす権力者を生み出し、

時に、荒れ狂う戦乱の世に平和の光をもたらす。あたかも世界を影から支える守り神のごとく…』


『私は、そんな大層な偉業を成していませんよ。うりさん』


フィンは苦笑いしながら、淹れたての飲み物をいれたカップを運んできた。

DIOにはブラックコーヒーを、プッチはカプチーノを…彼らのリクエストだ。


『新人の駆け出しだし、それに目的をまだ見つけられていないもの。それから、最初の質問の答えを言うと、全てのエクレシアは隠遁生活している訳じゃありません』

『人に紛れて生活している御方もいる、という事かい?』

『ご想像にお任せします』


プッチが興味深そうに尋ねた事に対し、フィンは笑って誤魔化す。


『まだまだ半人前にも至らないけれど、いつか…他の先輩方と同じように、胸を張れる位の生き方をしたいかな』


フィンは遠い目をして、ほのかに抱いている自分の夢を吐露した。

フィンは“誰もが成しえなかった大業をしたい”という野望はあまり持っていない。


まずは、今の自分の力量をどれだけ伸ばしていけるか…を最優先したい。

それから、形式契約を交わす相手をどのように見つけていくか。

目的を見つけるのもそうだが、この時点のフィンは自らのレベルをあげていく事を考えていた。


『ならば、私のもとへこい。お前のその能力を高め、十分に発揮できるぞ』


DIOは積極的な誘いをしてくるが、フィンはやんわりとそれを断る。


『魅力的なお誘いだけど、私はまだ一人生活を楽しみたいんです。ごめんなさい』

『WRYYYYYY…』

『ハハハ、振られてしまったね』


拗ねた子どものように、シフォンケーキをフォークで転がすDIO。

そんな彼の肩をポンポンと叩いて、まあチャンスはまだあるじゃないかと励ますプッチ。


『フィン…君を魅了する異性がいたら、その男性はとてつもない幸運を授かるだろうね』

『……?』

『まったくだ…だが、そんな男が現れる前に、フィンはこのDIOの僕になるがな!』

『えっ…なに、うりさん。私が僕になるのは決定事項なの?』


あの時のプッチの発言の意味は未だに解らない。

でも、いつか心から慕える人に巡り合えたなら、とても素晴らしいと思う。


(例え、叶える事のできない夢だとしても、一度でいいから…恋をしてみたいな)


エクレシアと人の寿命は圧倒的に差がある。

恋愛関係になっても、いずれその違いが障害になってしまう。

その事を受け入れた上で、人と婚姻を交わして子孫を生むケースもあるが、そんな寛容な人はそうそうはいない。


フィンは恋愛はしてみたいが、彼女の中には《結婚》という選択肢はなかった。

仮に、好きになった人がいても、その人が別の人が好きなら喜んで祝福してあげよう。

大好きな人がそれで幸せになれるなら、自分は遠くから彼の幸せを見守っていこう。

…そういうスタンスだった。



18/67ページ
スキ