ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)
「綺麗な瞳だ」
瞳の色を褒められた。
ジッと見つめられて、少し気恥ずかしさを覚える。
「……えっと…」
「お前には聞きたい事がたくさんあるが…疲れただろう。体調を見て明日以降にしよう」
食欲はあるか?
体調を気遣って、尋ねてくるリゾット。
フィンはコクリと頷く。
そうか、と一言呟くと椅子から立ち上がると、彼女の頭をくしゃっと撫でる。
「スープでいいか?」
「…は、はい」
「分かった」
大人しくしているんだぞ、とフッと口角を上げて言うと彼は退室した。
フィンは、ぽけ~と暫く彼の出て行った扉を眺めて、先程触れていた髪を自らの手で撫でた。
「……誰かに撫でてもらうの、久しぶりだな」
でも、嫌な感じはしない。
緩む口元を抑えられなかった。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
「ほら、ミーチョ…洗いざらい吐くんだ」
「…ふぅ……」
腕組をしたプロシュートの視線の斜め下にいるのは、ちょこんと座っているソラ。
威嚇の表情で見下ろしてくる色男に、ソラは少し不安そうだ。
「例え、お前でも正直に吐かねえなら、俺達は実力行使しなきゃならねぇ。さぁ…覚悟を決めやがれ。ホルマジオ…やれ」
プロシュートの指示に、ホルマジオは軽く息を吐くと、手にソラの小さな足をぽふっと置く。
「ふぅ!?」
ソラは目を丸くして驚く。
ホルマジオは、ゴツゴツした手でソラの足元を慎重に持ち上げると、
こしょこしょ…こしょこしょこしょ…
「うふぁはははは、うふぁははは~」
「ほーれ、ミーチョ…さっさとあのシニョリーナの事言わないと、さらに擽るぞ。こらぁ」
「なんつーか…緊張感のねぇ尋問だなぁ」
ソラの足の裏を指先で擽るホルマジオは、呆れたようにぽつりと感想を漏らす。
標的であるソラは泣き出すどころか、大笑いしている。
言い出しっぺのプロシュートに至っては、暗殺の任務時と同様に、至って真剣な態度で挑んでいる所は最早、滑稽を通り越して感心してしまう。
「そもそも、こんなちっこい子どもが、大の大人みてぇに、あの女の情報を事細かに知ってる訳ねーだろ」
「ホルマジオ、子どもの記憶力を舐めんじゃねえよ。この時期の子どもは記憶の吸収が早いんだ。例え、些細な単語だろうが、覚えてる可能性もあるだろう」
そりゃ、いささか強引すぎねえか? と返そうとしたら、玄関の扉がドンッと強く開かれる音が響いた。
「…ったく、買い物すんのにどんだけ時間がかかってんだ! ボケェ!」
「仕方ないだろ~。リーダーの直々の指示なんだしさ。買い物はよりいい物を選ぶのが基本じゃないか。なあ、ペッシ?」
「へ、へい…そうっスね」
たくさんの買い物袋を担いで、ギアッチョとメローネ、ペッシが順番に入ってくる。
アジトに帰還する前、リゾットは公衆電話をかけて、買い出しを命じていた。
“今日、客人がくる。今から言う物を揃えてくれ”
電話に応答したのは、メローネだった。
口頭で伝えられる単語をサラサラとメモに書きながら、内容を確認。
パスタ、ワイン、肉、果物、野菜…おかわりを想定して多めに購入する。
他にも、たばこ、ドルチェ、新しい髭剃り、といったものも含まれていた。
ここまではいつも通り。
しかし、今回はそれら以外に新しいカテゴリーが追加されていた。
《レディース用シャンプー、リンス、化粧品…》
それを見た瞬間、メローネの目はキラーンと闇夜にひっそりと忍び寄る猫のように光った。
来客は女性だ。
(リーダーがアジトに女を…? これは事件の前触れだ、いや事件のにおいがプンプンする!)
プライベートは、一切アジトには持ち込もうとしないリゾットが招いた異性。
しかも、女性用の洗面用具をそろえるあたり、本気で落としたい【本命】なのだと直感した。
どんな女性だろう?
経験豊富な棘のあるグラマラスな女性か…いや、リゾットの好みとはほど遠い。
逆に富裕層で、今まで何不自由なく育てられた純真無垢な箱入り令嬢だろうか?
はたまた、イタリアに住み始めたばかりの異国の一般人かもしれない。
どんな部類にしても、ギャングの…暗殺部隊リーダーという肩書をもつリゾットにとっては、障害のある恋になるのは間違いない。
しかし、恋というのは障害があればあるほど燃え上がるものだ。
相手が拒んでも、無理やり既成事実を作ったり、身体を骨抜きにして逆らえないようにして手元に置きたがるほどに…。
ああっ…とメローネの脳内のイメージはどんどん膨らんでいく。
果たして、リゾットの心を射抜いた異性とはどんなシニョリーナだろう?
リゾットはどんな風に彼女を口説き落としていくのか…?
想像するだけで、思わず身悶えてしまうではないか…!
大量の荷物を持つのはさすがに一人では困難なため、ギアッチョとペッシを巻き込んで買い物へ行った。
ふふふ、と終始にやけているメローネを、不思議がるペッシに、ギアッチョが「また腐った事考えてんな、この変態は」と吐き捨てたのは別の話だ。
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