ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)
「おい、どうした!? いきなり走り出して…」
金髪を結い上げた端正な顔立ちのスーツの男性が、幼子を抱いて早足で追いかけてきたようだ。
フィンは、その抱きかかえられている子どもにハッとした。
(このオーラは…)
「ふぃんちゃーん!」
自分の名前を呼ぶ可愛らしい声。
会いたくて仕方なかったもう一人の待ち人だ。
『ふー…ちゃん…』
リゾットとプロシュートは凝視した。
結晶石の中にいる、眠り姫…フィンが薄ら瞼を開けていく。
まるで、ソラの声に反応したように…。
「ふぃんちゃんだぁー、ふぃんちゃーん!」
「うぉ…ミーチョ、今日は何時になくお転婆になってんな…っ」
フィンの姿を目にして、ソラは嬉しくてたまらないのか、プロシュートの腕の中で手足をジタバタしだす。
大人しくしろ…と言い聞かせても、ソラはとまらない。
「いい子だから落ち着け…って、リゾット! 何ぼぉーと突っ立ってんだ! このでかい鉱石に閉じ込められてるシニョリーナは誰だ? 解るように話せ!」
部下の怒鳴り声が耳から通り抜けてしまうのか、リゾットは目を開けたフィンをジッと見つめていた。
『あれっ……目が…』
「目覚めたのか? 眠り姫」
渋みを含む声で問いかけられた。
黒と赤の瞳を鋭く細め、フィンへ視線を注ぐ。
普通なら怯え、怖がられるものだが、彼女はそんな素振りも見せず…開いたばかりの目を素直に向けた。
『私の声…聞こえていましたか?』
「ああ…」
彼が頷くと…フィンは一瞬きょとんしたが、徐々に蕾から花が開いたような笑みを零す。
『うわぁ…』
胸の所で両手を合わせて、嬉しそうに微笑むフィン。
ぶわっ、と強い風が吹き抜け、一面に咲く鮮やかな花々を巻き上げる。
舞う花弁が、リゾット達の頭上へ流れ散っていく。
トクッ…と高鳴る胸を利き手でそっと押さえると、リゾットは改めて彼女を見つめ直す。
「名を…教えてくれないか?」
『いいですよ。でも…』
まずは貴方の名前を教えて?
眠り姫のささやかな願いに、リゾットは口元を緩めた。
「…リゾット・ネエロだ」
【目覚めの言霊】
唇から紡がれた名前を聞くと、彼女は『リゾット…さん』と反芻させる。
「今度はお前の番だぞ」
『はい。私の名前は…』
彼女が名乗ろうとしたその時、ピキッと何かが割れる音がした。
「上を見ろ! 鉱石が…」
「ぴきぴきぃー」
プロシュートとソラが一斉に声を発する。
リゾットは目を見張る。
彼らの言葉通り、結晶石にヒビが入っていた。
当の本人である眠り姫もそれに驚いている。
ヒビはすぐに広がっていき、今にも崩れ落ちそうな雰囲気だ。
「やべぇ…離れろ! 下敷きになるぞ!」
リゾットに注意喚起するや、プロシュートはソラを抱えたまま、後ろへ大きく跳躍した。
―――パリンッ
その直後、スタンドさえも歯が立たなかった硬い結晶石が、硝子のように割れた。
バラバラと崩れ落ちる欠片と共に、眠り姫も重力に従って落っこちていく。
このままでは地面へ叩きつけられる…無事では済まされない。
プロシュートは、惨い現場を見せないよう自ずと彼女の元へいこうと暴れるソラの目を手で覆った。
しかし…急降下していく眠り姫を素早い影が受け止めた。
プロシュートとソラは目が釘付けになる。
口元を両手で押さえて、目をパチパチと瞬きさせている彼女を…リゾットが横抱きして目の前に立っていた。
「リゾット…Nizza(ナイスだ)!」
「しゅご~(すご~い)」
プロシュートは親指を立て、ソラはぱちぱちと手をたたく。
二人の称賛をうけつつ、リゾットは抱きかかえているフィンに「怪我はないか?」と尋ねた。
コクリと頷くと、リゾットは彼女をゆっくりと地面へ下ろす。
「さぁ…答えてくれ」
耳元に唇を寄せられ、静かな…艶のある声で囁かれた。
彼女は「わわっ…」とほんの少し頬を朱色に染めて驚く。
少しの間、視線を彷徨わせると、小さく首を縦に振って口を開いた。
「えっと…“フィン”です。はじめまして、リゾットさん」
【つづく】
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