ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


これは、あるアメリカ人女性が実際に体験した話だ。

6年前、その女性は「付き合ってくれ!」としつこいストーカーに悩まされていた。

エスカレートしていく男の付き纏いに、女性は警察に訴えていた。

しかし、警察が警告をしても男は諦める意思はなく、その女性にアプローチを続ける。

その日の夜も、男に追われて街中を必死にかけて逃走していた。


体力の差もあって距離が近づいていき、とうとう女性は路地裏まで追い詰められてしまった。

もうダメか…忍び寄る魔の手が間近に迫り、己を抱きしめた瞬間、濃い霧が周囲に蔓延した。

不意をついて女性は、逆方向へ走り出す。


霧の影響で前方の視界が悪く、どこをどう行ったのかは解らないが、つい先程までいた街とは全く異なる所だとすぐに気づいた。

地面はコンクリートから、苔や雑草らしきものが生い茂り、慣れてきた視界にぼんやりと周りが森林に囲まれていた。


何が起きているの?

女性の胸中は不安と混乱で渦巻いていた。

でも「待て!」と男の怒鳴り声が聞こえてきて、転びそうになりながらも、前へ進むしかなかった。


ハァハァと息切れしながら、女性はある場所にたどり着いた。

足を一歩踏み出すとふわりと舞うように飛び交う花弁。

鮮やかなたくさんの花々が一面に広がっていた。

恐ろしい状況に追い込まれているにも関わらず、女性は思わずその光景に見惚れてしまう。

一歩ずつ歩を進めていくと、奥の方に幾重もの蔓が中央にある大樹に絡まっていた。

まるで、その大樹を防衛するかのように…。


女性はその大樹を見上げてみると、両手を口に覆い、ハッと息をのみ込む。

彼女の視線に映ったものは、大樹の中心に巨大な結晶石が埋め込まれていた、いや覆われていたというのが正確かもしれない。

さらに、彼女が驚愕したのはその結晶石に《人》がいた事だ。


女性だった…いや、まだ幼さを残しているから10代後半の女の子にもみえる。

身長よりも長い髪、色は不明だが、ノースリーブのハイネックと上品なフリル付のワンピースを組み合わせた服装だ。

女性はまじまじと凝視してしまう。


まるで、童話にでてくる眠り姫のようだ。

すぅーと居心地よさげに眠っているその姿に、心の重荷が取れていく感覚がした。

だが、背後で「見つけたぞ!」と歓喜に湧く男の声に、自分の置かれている状況を思い出さずにはいられなかった。

じりじりと近づいてくる男に、女性は絶体絶命のピンチへ陥った。


『助けて…!』


縋り付く思いで、結晶の中にいる女性に叫んだ。

次の瞬間、大樹の周りの蔓が意思を宿したように、シュルシュルと動き出した。

すると、物凄い速さで、鞭を打つ様にそのストーカーを叩いたのだ。

あり得ない現象に、男は勿論、被害者の女性も唖然としてしまう。

さらに蔓は男に巻き付いてそのまま頭上高く持ち上げると、別の蔓が両の頬を高速ビンタしていく。


ぶふぉ、ぐふぉ、ひっ、やめて…もうやめてくれぇええ!

男が泣き叫んでも、蔓の猛攻は止まず挙句の果てに尻叩きしだす始末だ。

一時間後、ボコボコにされてその場に倒れる哀れな姿を披露する事になった男。

すると、蔓がその男を再び拘束するや、ぶんぶんと素振りするかのように、ペイッと空高く投げ飛ばした。


女性は、状況がうまく理解できずに当初、口を開けてぼぉーとしていたが、徐々に己が目にした現象を頭が整理しだす。

そう…助けられたのだ。

この結晶に宿る眠り姫に…。


『あ、ありがとう…』


ぽつりと、ようやく紡ぐ事のできた感謝の言葉。

すると、蔓が木に生えていた果実をとると、そっ…とその女性のもとへ運んできた。


《どういたしまして…大変だったでしょう。これでも食べて元気出してください》


ふと、耳元に誰かの声が聞こえてきた気がした。

気付くと、風景は見慣れた街並みに戻っていた。

周りには、行き交う人々の姿。

夜はふけて、朝方になっていた。


自分は、夢でも見ていたのか…?

そう思ったが、両手に握っていた美味しそうな果実を目にして、眠気すら吹き飛んでしまった。

ああ、《あれ》は現実だったのだと。


余談であるが、女性にしつこく付きまとっていたストーカーは後日逮捕された…いや、自ら出頭してきた。

警察署に飛び込んできて、「助けてください!」と涙ながらに訴えてきたという…。

ボロボロな姿から、当初傷害事件に巻き込まれた被害者かと思ったと、受付の人はそう証言している。

なお、ストーカーは「蔓の怪物が…眠り姫の呪いが…」と終始びくついて意味不明な言動を発していたらしい。


その後、似通った事件で自首してくる人物が多数でてくる事態になった。

しかも、どの加害者も同様の発言をして。


この事から、警察関係者のみならず、市民の間では《制裁の眠り姫》の話題が広まる事になった。



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