ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(1)


ディオは苛立っていた。

理由は簡単。つい最近まで情けなく項垂れていたジョナサンが、まるで今までの事が帳消しになったかの如く、明るくなったから。


(チッ…気に食わない)


内心、舌打ちをかました。

そもそも、ディオはジョナサンの事が大嫌いだ。

初めて会った時から、一目見た瞬間から…。


ディオは幼少期、酒浸りの父親に殴られ、扱き使われ、底辺の生活を強いられてきた。

病死した父親に対して憎しみ以外の何の感情もない…むしろ、解放されて清々する位だ。

これまで反吐がでる程の人生を送ってきたディオにとって、ジョースター卿からの養子縁組はまさに運命を変える絶好のチャンスだった。


“世界一の金持ちになってやる”


その決意を胸に、ディオはジョースター家の門をくぐった。





自分とは異なり、裕福で温かい家族に囲まれて育ったジョナサン。

ぬくぬくとぬるま湯に浸っていただけの甘ちゃんに、ディオの胸に軽蔑と嫌悪の念が胸を支配した。

この御曹司から、あらゆるものを奪い取ってやると誓った。

家族も、友人も…当主の座さえも。

彼の密かな企みは着実に進行していた。

家も学校も、すべて自分の味方だ。

孤立したジョナサンは、うまくいけば数年でこのまま挫折して自暴自棄な性格へ陥れる事ができる。


しかし、このところジョナサンの様子が変わった。うまくはいえないが、何かを決心したような瞳で、これまで以上に物事に対して前向きに取り組むようになった。

テーブルマナーも、勉強も、運動も…それでも、ディオには劣っているけれども、着実に成果を伸ばしている。



(あいつ、【味方】でもできたのか?)


ありえない。

学校の生徒の大半は、ディオに魅了されている。

そうなると…外部の人間か。

推理をしながら、階段を下りていると、メイド達が小声で秘密話を囁き合うのが耳に入る。



『ねぇ、今日はあの妖精の子、くるかしら』

『前にきたのは一週間前だったわね、そろそろじゃない』

『あの子みてると癒されるのよね~。旦那様も、養子に迎えたいって仰ってるくらいだもの』



妖精…ジョースター卿のお気に入り…。

聞き逃してはならない単語だと瞬時に察した。



『ジョナサン様も、妹のように可愛がっているものね。あのこねこの妖精さん』


その言葉が、ディオが抱いていた疑問のパズルにピースを埋めた。


「なるほど…その妖精があいつの味方、か」


ニヤリと企みの笑みを浮かべ、ディオは次の標的に狙いを定めた。





【悪の貴公子】





その頃、ジョナサンはいつもの川辺で、ソラと一緒にいた。


「ねぇ、君の名前をきいていいかな?」

「ふーたん」


ソラはそう答えた。

「ふぅ」というのは、彼女の本当の名前ではなくてあだ名じゃあないかな…とジョナサンは思った。

別に名前があるのは間違いないが、幼いこの子に聞くのは難しい。

ジョナサンは、こういう判断に悩む状況になった際に、よく父親の言葉を思い出す。

―――逆転の発想をする事を。



「だから僕はこう考えたんだ。『名前はもうひとつあってもいいんじゃあないか』、てね」

「ふぅ~?」

「これは、君と僕が友達だという証にしたいんだ。いいかな?」



了承を求めるジョナサンに、ソラは少しの間首をこてんを傾げるものの、すぐに「いーよ」とコクッと頷いた。


「君の名前はね…【ステラ】。イタリア語で『星』を意味する言葉さ」


父さんが持っている本をいっぱい調べていいのがないか、時間をかけて探してみたんだよ…と少し自慢げに語るジョナサン。



「よろしくね、ステラ」

「……しゅてりゃ?」

「ふふ、そうだよ」


新しくつけられた名前を、ソラは同じように口にする。

そんなソラの姿を、ジョナサンは微笑ましく見つめた。





【To Be Continued… ⇒】

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