ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(2)
仲間からの連絡で、アクセルが動揺していた頃…
ソラはジョナサンの右肩に乗っかり、移動していた。
「とまぁーとぉー♪」
「ふふふ、ステラは唄うのが大好きね」
まったりした顔で、どこかの外国語で歌うソラにエリナは微笑む。
(…夢みたいだ、いや…現実になったんだ)
ソラとエリナ…七年という長い月日を経て、ジョナサンは親友と思い人と再会する事ができた。
ディオとの確執による凄惨な事件、最愛の父の死…
辛い出来事が続いた事もあり、穏やかで平穏なこの一時が何よりも愛おしく感じてしまう。
(それなのに、なぜだろう…? 心が落ち着かないなんて…)
もう、悲劇を起こす元凶はいなくなった。
それなのに、幸せな気持ちに包まれる一方で、小さな波が不規則に押し寄せるようにざわりとジョナサンの胸を刺激してくる。
(…まるで、嵐の前の様な静けさ。これから何かが起きるような胸騒ぎ…)
脳裏に、おぞましい姿と化した元は人間だったゾンビ達…その後ろに強大な魔物と化したディオの姿がよぎる。
背筋に冷たいものが走る。
「じょーちゃん」
その時、ソラが声をかけてきた
ハッとした顔で、ジョナサンは右肩にいる小さいこねこにんに目を向ける。
「どしたん?」
ソラが眉を下げて尋ねてきた。
自分の不安な感情が顔に出ていたのか…それを感じ取ったのかもしれない。
「ううん、なんでもないよ」
この子やエリナに心配をかけたくない。
(…いけない、早く忘れないと…)
折角の楽しいティータイムの時間が台無しになってしまう。
ジョナサンは笑って取り繕い、恐怖を打ち消すよう努めた。
「ジョジョ」
「なんだい? エリナ」
「アクセルさん、まだ来ないわね。
さっき、不思議な音が聞こえていたけれど…何かあったのかしら?」
エリナが頬に手を添えて小首を傾げながら言う。
彼女の言う通り…おかしな音が響いてきた時に、アクセルは面倒くさそうな顔を浮かべていた。
動揺したり、焦っていたりしている訳ではなかったので心配はないが…。
「大丈夫だよ、アクセルさんは」
ディオとの戦いの時に、アクセルの強さを目にしていた事もあり、ジョナサンは落ち着いていた。
仮にチンピラ風情に絡まれていたとしても、アクセルの敵ではない。
ジョナサンの脳内では、アクセルが指をパチンとしてチンピラの頭を一瞬でごわごわアフロヘア―にして追い返すコミカルな場面が展開されていた。
「アクセルさんは強い人だからね。炎を操る魔法を使えるんだ」
「そういえば…」
エリナは思い出した。
あの化け物となった元警官を一瞬にして炎で包んで倒してしまった事を…。
「アクセルさんは…魔法使いなのかしら?」
エリナの頭の中では、グツグツと泡が吹いた大きな鍋に色んな材料を入れて、怪しげな薬を作るアクセルのイメージが浮かんでいる。
ここにアクセルがいたら「ちげーよ、そんなん作るのは別の奴の担当だから」と手を左右に振って即座に否定しているだろうが、生憎と当の本人がいないため撤回しようがない。
「まだ分からないけれど…その可能性はありそうかな」
生まれ持った力なのか後天的に習得したものなのかは不明だが、あの炎の魔法は強力だった。
(僕もステラから加護をもらったけど…どんな能力なのか、まだ解明できていない)
なにせ、授かった当初は命がけの戦闘の最中だった。
体の中から力がみなぎり、異常なまでのディオの動きを感知し、攻撃を読み取りながら対抗できた。
(あの時は必死だったからな…)
よくあれだけ対応できたと思う。
逆に非常事態だったから、能力を開花させられたと考えるべきか。
(…もう少し落ち着いてから、この力を検証してみよう。新しい発見があるかもしれない)
「ジョジョ、着いたわよ」
エリナの言葉で、ジョナサンは思考の中から意識が現へ戻った。
視界に映るのは、子どもの頃はよく遊びに来ていた川辺だった。
「懐かしいな。よくここで遊んだよね…」
水面を反射する陽の光が少し眩しい。
瞬きして、透明な川の水を見ると…ジョナサンは微かに目を見張る。
何故なら、そこには…少年時代の自分自身の姿が映っていたのだ。
(もしあの頃、ステラと出会わなければ、どうなっていたんだろう…)
もしもの仮説が頭をよぎる。
その中には想像したくない出来事さえも、浮かんでしまった。
「見て、ステラ。お魚が泳いでるわよ」
「わぁ~」
エリナに抱きかかえられ、ジョナサンの肩から降りたソラはキラキラと光が反射する川の中にいる魚を楽しそうな顔で見ている。
そんなこねこにんの様子を見ながら、ジョナサンは口元を緩める。
(ステラがいたおかげで…今の僕がいるんだ)
いつまで傍にいられるか分からない。
人よりも成長が大分遅いソラが大人になる頃には、ジョナサンとエリナは天に召されているはずだ。
それでも、生きている間はこうやって三人で思い出を作っていきたい。
再び、ジョナサンが川の水に視線を戻すと…そこに映っていたのは現在の自分の姿だった。
そして、エリナとソラも…三人一緒に。
(ステラ、大人になっても…僕とエリナの事を忘れないでね)
自分達との思い出がずっと、ソラの記憶に残るように…。
ジョナサンは、その願いを叶えるために三人で過ごすこの時間を大切にしていこうと決意した。
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