ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(2)
アクセルは絶句した。
ソラは…ジョナサンといつの間にか形式契約を交わしていた。
エクレシアが契約を交わす際の儀式の手順を、アクセルは一応知っている。
だが、それに至る過程を省略して契約を成立させた事例は初めてだ。
(くっそ…何がどうなってんだッ…!?)
ありえない事態が連続して頭の整理が追い付かない。
「ディオ!」
ジョナサンは素早く駆け出すと、拳を構えてディオの顔に目掛けて打ち込んだ。
「ッ! ぐはっ!」
突然の現象に気を取られていたため、ディオはその攻撃を回避できずに諸にくらってしまった。
顔面を強打されるや、壁を激突してしまう。
派手に壊れた壁から粉塵が飛び出る。
「く…くくっ…」
五秒立たない内に、見えない砂埃の中からディオは笑いながら出てきた。
「この様な単調な打撃…俺にはきか…ぐっ…!」
だが、ジョナサンの攻撃を馬鹿にしていたディオが口から盛大に吐血した。
再生能力ですぐに回復するはずの顔面も、治るスピードが遅くなっている。
(ど、どういう事だッ…! これは…)
「この力は…」
内心動揺するディオと同じくらい、ジョナサンも驚いている。
先刻まで全く歯が立たなかったディオに、ダメージを与える事ができたのだ。
「ならもう一発…」
「くっ! 図に乗るんじゃあないぞ、ジョジョォオオオ!!」
構えるジョナサンに、ディオは激昂して瞬時に背後へ回って背中を突き刺そうとした。
「…! ふんっ!」
「なっ…!?」
しかし、ジョナサンは彼の動きをあたかも読みとったように、彼の鋭い凶器と化した右手を両手で掴み、そのまま勢いよく背負い投げした。
床に叩きつけられるディオは、すぐさま起き上がろうとするが、大聖堂の大鐘を鳴らしたかのような頭痛と共に、全身が痺れて上手く動かせずに硬直してしまう。
「…ぐっ…き、さま…何を…した」
「見える…ディオの動きが…分かる」
信じられないと目を見開き、己の利き手を見つめるジョナサン。
これが…エクレシアとの契約により、授かった『力』なのだと改めて認識した。
「ハァッ!」「くぅっ…!」
一瞬の隙をついて、ディオが鋭い指先でジョナサンの首へ突き刺そうとしたが、ジョナサンは間一髪回避した。爪先が頬に掠り、傷口からドピュッと少量の血が吹き出す。
「どうしたぁ、ジョジョォオオオ? さっきのはまぐれだったのかァアアアア!」
ディオは間髪入れずに、ジョナサンの首や心臓部を狙って攻撃を繰り出していく。
それに負けじと、ジョナサンもかわしていくもののなかなか反撃ができない。
「無駄、無駄、無駄、無駄、無駄ぁああ!!」
ディオの猛攻をかわすだけで精一杯のジョナサン。
その時だった…
「ふぅ~♪ るぅ―――♪♪」
耳元に、なんとも不思議な…気の抜けるような歌が聞こえてきた。
「しゃー♪ とぉー♪♪」
ジョナサンがその方向を見上げると、空色の光翼で浮かんでいるソラが唄っていた。
歌詞の意味は分からない。
けれど、その歌はジョナサンの胸に淡い懐かしさを広げていき…同時に不安と恐怖の気持ちが少しずつ洗浄されていく。
「はあっ!」
ジョナサンは、足を高く上げてディオの頭部から肩にかかる部分へ回し蹴りを食らわした。
「ぶごっ…!」
その蹴り技が見事的中し、ディオは床へ伏してしまう。
心なしか、先程よりも攻撃力とスピードが上がったような気がする。
(もしかして…ステラが…!)
ジョナサンの予想は的中していた。
(あれは…歌詞はてんで適当だが、神術の一つだ)
アクセルは、敵の動きを注視しつつも味方であるソラの行動も観察していた。
ソラは唄っている…いや、正確に言えば術を発動させている。
あれは、エクレシア等が使用する高位の神術の一つである【ホーリーソング】
術者によって、歌詞の内容には差異があるが、【ホーリーソング】には、術者の味方となる対象者の攻撃力と防御力を上昇させる効力がある。
さらに、熟練者のレベルとなると歌に術者固有の力が加わり、敵から受けた攻撃による異常を浄化したり、広範囲の回復術となったり…進化するという。
(けど、コゼットから聞いた話じゃ…ふーはまだ簡単な治癒術しかできねえはずだ。一体いつ…? どこであの術を覚えた?)
行方不明となっていた半年(この世界の時間軸だと七年)の間に…ソラに『何かがあった』
漠然とだが、その仮説がアクセルの頭に浮かび上がった。
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