ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(2)


「おじたん、どしたん?」

「ああ…ステラ。君と再会できた事も…嬉しかった…」

「おじたん、まっきゃ(まっか)、いたいん?」


ジョースター卿の衣服から滲みでていた血液が、ソラの白いこねこにんの服にべっとりとつき、赤く濡れていく。彼が怪我をして痛いのだと思ったのか、ソラは両手から癒しの術をかけようとしたが…



「ステラ…いいよ」


ジョースター卿がそれを止めた。

なんで?とソラはこてんと首を傾げる。



「私のこの怪我は…かなり深い。

それを治す為に…小さな君が癒しの魔法をかけたら…君にすぐに…負担がかかってしまう。

そんなこと…ダメだ…君は…例え、血のつながりがなくったって…私の娘なんだから…」


「ジョースター卿…(フーのために…自ら治療を拒むのか…ッ)」

「父さん…ッ」


「エリナさん…これを貴女に…」

「これは…」


「径が小さいので…小指にしていたが…

なくなったジョジョの母…私の妻の指輪…だ…どうか受け取ってくれ…」



ジョースター卿はジョナサンの手を借りて小指から指輪を外し、エリナへ渡した。

ごほごほっと咳をするジョースター卿に、ジョナサンは手を握る力を強める。


「くそっ、俺がついていながらナイフを防げないなんて!」


スピードワゴンは何もできなかった己自身に悔しさを滲ませている。


「わ、わしの責任だ!…わしが奴の父親を流島の刑にしてれば…こんな事にはならなかったんだ!」

「ディオ・ブランドーの父親?」


中年男性の警部が震えながら言った事に、スピードワゴンが反応する。


「あんた…あの男の父親と面識があるのか?」

「ああ…とんでもない悪党だった」


アクセルがさりげなく尋ねると、警部は20年前のある出来事を語りだした。

ディオ・ブランドーの父親、ダリオはこすずるい悪党だった。

馬車の事故に乗じて、金品を強奪していた時に、ジョースター卿が命を助けてくれた恩人だと勘違いしたようだ。その際に、ダリオはジョースター卿の妻のペアの婚約指輪を盗んでいて、質屋に売り払おうとしたのを警察に見つかり、ご用となった。

当時、まだ若かった警部は、ジョースター卿にその盗難品を戻したうえで、犯人のダリオと引き合わせた。



「だが、ジョースター卿はあの男を許した。

それどころか、『この指輪は私が与えたものだ』と慈悲を与えてしまったッ!

あの方はブランドーがおかした罪もすべて受け入れた上で、見逃したんだ…。

そして…その息子さえも養子にしてしまった…。

あの時、わしが奴を流島の刑にしていれば…こんな悲劇は起きずに済んだのに…ッ」



怒りと悲しみを交えた顔で涙を流しながら、警部は当時の事を強く後悔していた。

警部の話を聴いたアクセルは、やりきれない思いに駆られる。

同時に、ジョースター卿の優しさがこんな形で踏みにじられた事に憤りを感じた。



「ジョジョ…ディオを恨まないでやってくれ…

…私が悪かったのだ…実の息子ゆえにお前を厳しく教育したけれど…

ディオの気持ちからすると…返って不平等に感じたのかもしれない。

それが彼をこのような事にしむけたのだろう」



雨に濡れて倒れているディオに視線を向け、ジョースター卿はさらに続ける。



「ディオはブランドー氏の傍に葬ってくれ…。

ジョジョ…息子の腕の中で死んでいくというのは…悪くないものだ…」


「ダメだ! 父さん、弱気になってはダメだ!」

「エリナさん……どうか…ジョジョを…支えてあげてください…」

「ジョースター卿…ああ…お義理父様…ッ」



必死に叫ぶジョナサンと、真珠大の涙を零すエリナ。

そして、ジョースター卿はソラに穏やかに微笑みかける



「ステラ……もし生まれ変わる事ができたら…今度は…私の…家族になってくれる…かい?」

「うん」

「……ありがと…う……」



ソラの頭をそっ…となでた直後、ジョースター卿の腕がゆっくりと下がっていった。

ジョナサンは眼をきつく瞑り、エリナもまた両手で顔を覆い、号泣する。


「おじたん…」


周囲が悲しみに包まれる中、ソラもまた寂しそうにジョースター卿の冷たくなっていく手の甲に自らの手を重ねた。





【『もやもや』の正体】





雷がピカッと光ったその刹那、アクセルは嫌な気配を感じた。


(…なんだ……このじんわり浸食するような…魔の気配は…)

「死体が…死体が…ディオ・ブランドーの死体がない!」


スピードワゴンが、倒れていたはずのディオの死体がない事を発見した。

アクセルもすぐに視線をそちらへ移す。

彼の言う通り、犯人のあの男の死体はなく、石仮面だけが落ちている。


「…ふぅ…! もやもや…おる!」


急にソラが怯えだした。

彼女が発した「もやもや」という単語に、アクセルの嫌な予感は的中する。


「ディオが…生きている…!?」


その時だった、割られた窓付近から気配を感じ取ったのは…。


「警察の旦那、窓から離れろ―――!」


スピードワゴンも同じく危険を察知したのか、近くに立っていた警部に警告した。

その直後、警部の顔がドンッと粘土細工がねじりきられたのように、ぐちゃぐちゃになった。


「ワァアアアアッ!!」

「け…警部ぅうウウ!!?」


いきなり、惨殺された上司を目にした警察官達の悲鳴が飛び交う。

ジョナサンもその異変に気付き、そちらへ目がいきそうになったエリナを抱き寄せて、ショッキングな光景を見せない様にした。



  「UREYYY―――!」



奇声をだして、窓から一人の男が侵入してきた…殺されたはずのディオだった。

だが、さっきと雰囲気ががらりと変化していた。



「まさか…あいつ、本当に人間を捨てちまったのか…!」

「!……おいたのにーたん…!?」



アクセルが眉を顰めて苦々しく言い、身構える。

現れた『もやもや』の正体に、ソラは目を大きくさせた。





【To Be Continued… ⇒】

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