ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(2)


「久しぶりですね、アクセルさん。お変わりないようで…」

「ああ、あんたも元気…ではなさそうだな」


七年ぶりに顔を合わせたジョースター卿は、病の所為か顔色がすぐれずやつれていた。

あまりの変わり具合に、アクセルは言葉を濁してしまう。

戸惑う彼の心情を察したのか、ジョースター卿はフフッと微笑む。



「安心してください。ただ…長い風邪をこじらせただけですよ」

「そうか…」

「ところで、そちらのお嬢さんは?」


ジョースター卿の視線が、アクセルの隣にいる女性に向けられる。

清楚な水色と白のドレスを纏う淑女に、ジョースター卿は興味が湧いた。



「彼女はエリナ。俺とフー…いや、ステラの友達だ」


「ジョースター卿、お、御目文字叶いまして光栄に御座います。

エリナ・ペンドルトンと申します」



ほら、挨拶しろよと軽く背中を叩いて促すアクセル。

エリナはやや緊張気味ながらも恭しくお辞儀をして自己紹介をした。

アクセルの家族か、はたまた恋人だろうか…と思っていたジョースター卿は、彼等の言葉に微かに目を見開く。



「エリナ・ペンドルトン…もしや、君がジョジョの言っていた子かい?」

「ジョ…ご子息様が、私の事を…!?」


ジョースター卿の思わぬ発言に、エリナは驚く。


「ああ、申し訳ありません。私…声を出してはしたない事を…」


頬を紅潮させてて謝罪するエリナに、ジョースター卿はハハハッと笑う。


「いやいや…これは失礼。いきなり名前を出されては驚いてしまうのは無理もない事だ」


『女性に恥をかかせてはならない』という配慮から、気になさらずにと優しく言うジョースター卿。

さすが紳士だな…とアクセルは感心する。


「ジョジョから、貴女の事は伺っていたんだ…エリナさん」


ジョースター卿は、瞼を閉じて語りだす。





二年前、彼はジョナサンに縁談を持ち掛けた。

相手は同じ貴族の令嬢…ジョースター卿の知人からの紹介だった。

しかし、ジョナサンはその縁談を断固として断った。

いつもは、父の気持ちを尊重する息子がこの件だけは頑なに拒否した事に、当初ジョースター卿は驚愕を隠せなかった。


その理由を問い正すと…ジョナサンは真剣にこう言ったのだ。



『すみません、父さん。僕には…生涯を共にすると誓った愛する人がいます。

エリナ・ペンドルトンという素敵な女性です』


『彼女は父親の仕事の都合で、インドにいます。

ですが、いずれ…この英国に戻ってきます。

僕は、彼女…エリナが戻ってきたら再びプロポーズをします』


『“エリナ…僕の妻になってほしい”と!』



「ああ…ああっ…ジョジョ…ッ!」



エリナは口元を両手で塞ぎ、瞳から感涙を流し出す。


「すまないね。泣かせるつもりはなかったんだ…さあこれで拭いてください」


ジョースター卿は、泣くエリナに軽く謝罪するとハンカチを渡す。

それを受け取り、目元を抑えるエリナ。

ジョースター卿は微笑みながらさらに続ける。



「…息子が言うべき言葉を、私が先に言ってしまったな。

後でジョジョに謝らなければならないよ。エリナさん…一つ聞いてもいいかい?」


「はっ…はい…」


「君は、息子 ―――ジョナサン・ジョースターの事を、どう思っていますか?」



ジョースター卿が優しい顔で問いかけた。

エリナは込み上げてくる嗚咽を堪え、小さく首を左右に振る。

真っ直ぐにジョースター卿を見据え、彼女は言った。



「私は…エリナ・ペンドルトンは、ジョナサン・ジョースターを…愛しています」



エリナは、自らの胸に秘めていた思いを告白した。

この場で言わなければ、もう二度とこんなチャンスに巡り合えないと思ったからだ。

エリナの精一杯の返事を聞いたジョースター卿は満足げに「そうか…」と呟く。



「私は嬉しいよ…ジョジョが最愛の人を見つけていた事を」

「ジョースター卿…」

「…よければ話してもらえないか? 君とジョジョの馴れ初めを」



ジョースター卿とエリナが会話するその空間はとても穏やかな空気に包まれていく。



(…俺は外に出た方がよさそうだな)


二人きりにさせても問題ない。

そう思ったアクセルは、華麗に退室した。



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