ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(2)


町の入り口に近い街道から逸れた叢付近までやってくると、アクセルはエリナの話に耳を傾ける。


「なるほど…それで、ジョジョに会うのを躊躇してんのか」

「…はい」


とても真面目な雰囲気で話をしている二人を真下で見つめるソラ。

エリナが、ポツリポツリと内に抱える悩みを語っていく。


「…ジョジョに迷惑をかけたくないんです」

「…ハァ~…」


ソラは思った。

二人の話はとっても長くなりそうだ。

でも、なんでエリナはジョナサンに会いたくないのだろう?

エリナは、ジョナサンの事を今でも大好きなはずなのに…。


(えりちゃん…ないとる)


目元から真珠大の涙を零し始めたエリナ。

アクセルが慌てて、ハンカチを取り出して彼女に拭くよう促している。

どうすれば、エリナは元気になるだろう?

どうしたら、エリナは笑顔になるだろう?

ソラは幼児ながら一生懸命考えた。



(ふぅ~…じょーちゃん!)


そうだ、ジョナサンを連れてくればいいんだ!

ジョナサンがいないから、エリナは泣いてしまうのだ。

きっと、ジョナサンが傍にいればエリナも泣き止んで笑ってくれる。

そうだ、そうしよう!


「あくたん、あくたん」

「ん? どうした、フー」


言いたい事をぶちまけたおかげで、大分泣き止んだエリナに、アクセルはホッとしていた矢先、ソラに声をかけられて下へ視線を向けた。



「ふーたん、いきゅ」

「えっ、どこへだ?」


「じょーちゃんとこ」

「っ!…お、おい! ちょっと待て…」



ソラが告げた事の意味をすぐさま察したアクセルは制止しようとしたが、ソラは白い光に包まれ、空高く飛んで行ってしまった。


「あっ~!!」


アクセルは叫ばずにはいられなかった。

触れようとした手が空を仰ぐ。

ようやく見つけ出して、連れて帰れると思って安心したのもつかの間、またしてもソラを逃してしまった。



「す、ステラ…アクセルさん、ステラはいったい…」


一気に落胆の気分になりかかったところ、一部始終を間近で見ていたエリナは狼狽していた。

あ~…と額を手で抑える。

この状況、前にもあったな…とデジャヴを感じずにはいられなかった。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



揺れる馬車に乗ったジョナサンは、逸る気持ちを抑えるのに必死だった。

ディオが、これ以上毒薬を父に服薬させない様に、信頼できる医師達に父の治療を頼み、父に数日の外出の許可を得て今に至っている。


父の体を蝕む毒を取り除くためには、解毒剤が必要だ。

大学の研究室でも、薬の分析は不可能だった。

その薬は東洋のものであるらしく、ディオは屋敷に来る前、ロンドンのスラム街に住んでいた事から、そこで入手した可能性が強い。

そう推測したジョナサンはある場所へ向かっていた。



―――《食屍鬼街(オウガストリート)》



「だ、旦那…ここはロンドンでも一番やばい町なんでさ」


「分かってるよ…だけど僕には行かなくてはならない理由がある。

君は引き上げてくれて構わない」



ジョナサンはそう言うと、雪が積もった道を一歩ずつ前進していく。


(一刻も早く証拠と解毒剤を見つけなければ…!)


食屍鬼街(オウガストリート)は不気味な町だ。

全体的に薄暗く、剣呑とした異様な空気が支配している。

迷路のような複雑な道を壁の傷や構造を頼りに、進んでいくジョナサン。


「ここも行き止まりか…」


道が塞がれていたため、一旦来た道を戻ろうとしたその時…積もった雪の中から何かが勢いよく飛び出した。

黒猫だった…しかも屍となって間がない子犬を咥えていたのだ。


「ひどい! 猫が子犬を食ってた…!」


ジョナサンは息を飲み込んだ。

猫が犬を食うなんて信じられない光景…

弱肉強食の一場面を目の当たりにして、頭を金槌で殴られたようなショックを受けた。

あまりにも凄惨な場面に出くわし、心が落ち着く暇もなく、別の方向から三人の男性がこちらへ走ってきた。


如何にもガラの悪いゴロツキどもだ。

手にはナイフを持ち、標的が自分だと気づくのに時間はかからなかった。


「なるほど…名前にふさわしい町だ」


ジョナサンは襲い掛かってくる男達に対し、焦ることなく目を向ける。

顔にペイントを塗った男が、ナイフを振りかざしてきた…その凶器をジョナサンは素手で受け止めた。


「こいつ…! ナイフを素手でとりやがった!」


男は驚くものの、すぐにニタッと笑みを浮かべる。


「ふへへっ…だがよぉ、オイラがこのナイフをちょいと引っ張ったら、4本の指は削げ落ちるぜ!」


しかし、ジョナサンは屈するどころか気迫を伴った顔で高らかに告げた。



「試してみろ! 引っ張った瞬間、僕の丸太のような足蹴りが君の股間を潰す。

僕には指4本など失っていい理由がある!」



気迫に押された男がひるんだ瞬間、ジョナサンはペイントの男の顔面を殴った。



「それは父を守るため! ジョースター家を守るため!

君等とは闘う動機の『格』が違うんだ!」



別方向から、東洋人の男が跳び蹴りをしてきたが、殴り飛ばした。


「そこの東洋人…君なら知っているな。東洋の毒薬を売っている店を!」

「お前! 指4本失っていいだと?」


倒れている東洋人に気を取られていると、三人目…眉間から左頬に走った切り傷がある、ぼさぼさの長髪の男の声で、ジョナサンはそちらへ視線を戻す。

男は被っていた帽子の縁を指先で触れると、生地の部分がとれて、重なり合った円状の刃物が露わになる。



「ハッタリぬかすなよ、金持ちの甘ちゃん。試してやる!」


走ってくる男に対し、ジョナサンは恐れる事無く構える。

例え、指を失おうと身体を傷つけられようとも…此処で死ぬわけにはいかない。

家を…父を守るために、立ち止まるわけにはいかない!



「…どんな妨害があろうと、つきとめるのみ!」



ジョナサンが強く願った。

――《大事な人を守る力が欲しい》と。



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