ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(2)
「いい天気だな…」
穏やかな陽が降り注ぐ午後、ジョナサン・ジョースターはラグビーの試合が終わり、更衣室で着替えを終え、外に出た所だ。晴れ渡る空を見上げ、少し冷たい風が吹き付ける。
それをジョナサンは心地よいと感じていると、ふと手の甲に目を向ける。
「……ステラ、君はどこかで元気でいるのかな」
右の手の甲に薄らと浮かび上がる、メビウスの輪を象った紋様。
これは、ステラがいなくなってから、ある事件の際に突如、手に現れた印だ。
そう…忘れもしない6年前の冬。
クリスマスを数日前に控えたある日、ジョースター家に泥棒が入った。
犯人は、新しく来たばかりのメイドを人質にとって金銭の類を用意しろ、と要求してきた。
その際に、ジョナサンは階段から飛び降りる形で犯人に飛び付き、メイドを救出。
もみ合いになり、犯人が持っていたナイフで襲いかかろうとした時、手の甲が光りを放ち、犯人を目晦ましさせ、捕える事に成功したのだ。それ以来、その不思議な現象は起きていないものの、手の甲に浮かび上がった紋様は薄らと浮かび上がったまま。
当初は、神様の御加護があったんだ…と使用人達の間で密かに噂が広まっていた。
ディオは鼻で笑っていたけれども、ジョナサンはまさか…と脳裏に小さな友達の姿がよぎった。
以前、アクセルが言っていた。
エクレシアは、自らが認めた人との間に契約を結ぶ事があるらしい。
(もしかしたら…僕は、ステラとの間に契約を交わしていたんじゃ…)
仮にそうだとしても…いつ? どのタイミングで? そんな重要な儀式を行っていたのか?
色々と思考を張り巡らせてみたものの、今の所ステラと契約をした確証は得られていない。
(それでも…この紋様は、ステラがくれた『信頼の証』だと、僕は信じている)
あれから、7年が経過した。
ジョナサン・ジョースターは、12歳の少年から精悍な顔つきのたくましい青年へ成長していた。
元々、歴史に興味があったので、大学では考古学を専攻した。
【エクレシア】に関する事も調べられるのでは…という期待もあり、ジョナサンは部活をする傍ら、様々な文献や資料を調べていった。
4年間の調査の結果…ごく一部の文献に、エクレシアらしき種族の事が書かれていた。
ジョナサンが住んでいる世界で、遥か昔…古代ローマの帝王に仕えていた従者の一人が【エクレシア】だと言われている。どういう経緯で、その人物がローマ皇帝と契約を交わしたのかは不明だ。
けれども、文脈からはその契約者である皇帝に忠誠を誓っていたらしく、次の皇帝の時代以降は一切名前が登場しなくなる。
ジョナサンは思った。
その契約者である皇帝とエクレシアは“特別な強い絆”で結ばれていたんだ…と。
だから、エクレシアは違う皇帝には仕えず、歴史の舞台から降りてしまった。
(…この後、このエクレシアはどうなったんだろう?
知りたいけど…これ以上の記載はどこにも見つからない)
スッキリしない感覚だけが残ってしまった。
けれども、ジョナサンは諦めていない。今は“あるもの”を題材にした論文に集中しているが、いつかエクレシアの事を時間をかけてゆっくり研究していきたい。
この世界にいたエクレシアの痕跡を探る事が、小さな友達との再会になるかもしれない
…そんな希望を抱いている。
「ジョジョ、まだそこにいたのか?」
耳元に聞こえてきた声に、ジョナサンは後ろを振り向く。
太陽にあたり、光を帯びた輝くを放つ金髪の美青年が愛想よく笑って手を挙げている。
その青年は…7年前に、ジョースター家の養子となり、ジョナサンを執拗に虐めていた人物、ディオだ。
「今日は、ジョジョのなくなったお母さんの誕生日で、墓参りにいくんだろう? 父さんが待ってるよ」
ステラが消えて以降、ディオとは他愛もない話ができるようになり、距離も縮まっていった。
現在では、ジョナサンと同じ大学で法律の分野で優秀な成績をとり続けていて、同じラグビー部で二人でエースとして活躍している。
傍から見れば、ジョナサンとディオは非常にいいコンビであり、仲の良い親友同士だ。
「ああ、ごめん…待たせたね。急いで帰ろう」
でも、ジョナサンは…苦悩していた。
(ディオが正式な養子になり、僕の父を『ジョースター卿』ではなく『お父さん』と呼ぶようになってどのくらい経ったのだろう…?…正直、僕は彼に対して友情を感じていない…何故!? 彼はあんなに凄くて良い奴なのに友情を感じないんだッ!)
7年前に、自分に対して行った虐めのトラウマかもしれない…とジョナサンは思った。
あの頃のディオは、ジョナサンへの敵意と悪意が半端なかった。
エリナやステラ…親しい友達にさえも暴力を振るい、危害を加えようとした。
それに、愛犬のダニーが焼却炉で危うく命を落としかけた事件…。
犯人は見つからなかったが、もしやディオが自分への仕返しにあんな事をしたのではないか…と疑ってしまう。
(……僕はなんて嫌な奴だ。何の証拠もないのに、まだディオを信頼できないなんて…)
7年かけて、ようやく彼と家族になれたはずなのに…実際の距離はまだ縮まっていない気がしてならない。
(…こんな時、アクセルさんだったらどうアドバイスしてくれるかな…)
そういえば…彼とはあの森での出来事以降、全く会っていない。
どこかで、ステラを発見できたのか?
それとも…未だに見つからず、此処とは異なる世界を彷徨っているのだろうか?
馬車に乗って、ジョナサンは外の風景を眺めながら、彼らとの短い思い出を回想しつつ、寂しさで胸が痛くなった。
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