ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(1)


「ねーねー、ぱるしゃん」

「なんだい? ステラ」

「ふーたん…じょーちゃん、えりちゃん…あいたい」


背の高いハーパルを見上げて、ソラは友二人に会いたいと懇願した。

果樹園にずっといて、このところ親しい人たちに全然会っていない。

ジョナサンとエリナ、ダニーやジョナサンのお父さん…優しいおじさんに会いたい。

此処も好きだけど、大好きな友達がいる所に行きたい気持ちが勝った。



「そうだな…そろそろ頃合いかもしれないな」

「わんだにゃんもいい?」

『にゃーん…ぼくもふーちゃんの友達にあいたいにゃー』


「すまないが、ステラ…“今の君”ではドリーム・シンフォニアを現世へ連れ出す事はできない」

「ぶぅ~」『つまんないにゃー』



今のソラは、スタンドを自由に使いこなす事はまだ難しい。

神界では、普通に具現化できても、実世界では先天的な能力者でなければ、長い訓練を積み重ねなければならない。



「…ステラ、俺の世界を、そこで暮らす人々を好きになってくれた事は感謝している。

だが…一つだけ忠告しておこう」


「なーに?」


「君の“帰るべき場所”を忘れてはダメだ。

……覚えているかな? 君を待っている家族や近しい人達の事を…」



ハーパルが指摘した事で、ソラの脳裏に次から次へとたくさんの人物像が浮かび上がる。

親友の月華…コゼット…リエ…同じ種族である年上の仲間達。

そして、母であるアンナを…彼女のぬくもりを思い出す。



「あい!」


「ならいい。ステラ…帰るべき場所の記憶はしっかりと頭のノートに書き込んでおくんだ。

―――“一度でも忘れてしまえば、二度と戻れなくなる”ぞ」



ソラはまだ幼い。

異世界の環境に慣れていく内に、その世界が“自らの故郷”と認識してしまう可能性があるためだ。

ある程度の年齢のエクレシアなら、使命が終われば自らのいるべき場所へ戻れるだろう。


けれども、ソラにはまだその分別がうまくつかない。

長期に渡り、この世界に居続ける事で、家族を…仲間を…本当の自分自身を忘れてしまう危険がある。


だから、ハーパルは二度注意を促した。

幼いこねこにんの未知数の力に目をつけても、彼女の記憶を…居場所まで改竄する意思は毛頭ない。

打算的な狙いはあれど、ある程度の良心はあるのだ…この導き神は。



「またきていーい?」

「ああ。気が向いたらきたまえ…君の大好物の果実をご馳走しよう」

「あんがとー」


礼を言い、ソラは小さい手を振ると白い靄で覆われている方向へ歩いていく。

その方向にあるのは、現世への入り口。

ハーパルが教えた訳でなく、彼女は直感でその方角へ足を進めていった。

取り残されたドリーム・シンフォニアが『だいじょうぶかにゃー…』と不安そうに、こちらとソラが行った方を交互に見やる。


「見届けよう…まずは、彼女自身のお手並み拝見だ」


顎鬚を擦り、ハーパルは口元を微かにあげて呟く。

小さなこねこにんが、数奇な運命に巻き込まれてる星を背負う一族に、どんな相乗効果をもたらすのか…期待して。





一人の人物が川辺を歩いていた。

上品で慎ましやかな服装の長い金髪の美しい女性だ。


「懐かしいわ…」


女性…エリナ・ペンドルトンは、一ヵ月前に故郷である英国に戻ってきた。

七年間、インドで生活していた時に父の指導の下、猛勉強をして看護師の資格を取得。

現在は、父が運営する病院で働いている。

今日は休みをとって、久しぶりに散歩を満喫している最中だ。


「この木、まだ残ってたのね…」


七年前…まだ少女であった頃に、初恋の男の子が彫ってくれたサインがあった。

ハートマークの中に男の子…ジョナサン・ジョースターとエリナ自身の名前が刻まれていた。


『まあ、ジョジョったら!』

『あはは…』

『えりちゃん、まっきゃ(真っ赤)~』


そう、子どもだったあの頃、エリナとジョナサンは将来を誓い合った。

そんな二人の誓いの証人であり、小さな親友のステラも一緒だった。

故郷に帰ってきて以降、エリナはジョナサンと再会していない。

風の噂では、彼は大学に進学していると聞いた。



  “ 会いたい ”



ジョナサンを愛する気持ちは今でも変わらない。

しかし、子どもの頃とは異なって気軽に互いに接触できる立場でない事を実感せざる負えなかった。

忙しい事もあるが、何より“身分”という壁が両者の間に立ちはだかった。

透き通った川の水を眺めながら、エリナは傘を握る手を強める。



「…あの頃に戻りたい」


エリナは、瞼を閉じて願った。

お願いです、神様…一度だけでもいい。

…どうか、愛しい人と親友に会わせてください。


「ジョジョ……“ステラ”……」


彼等の名前を口ずさんだ瞬間…



  パァアア…!



左の手の甲に光り輝き、紋様…メビウスの輪を象ったもの…が浮かび上がる。


「な…なに……何なの!?」


持っていた傘を落として、エリナは左の手の甲を抑えて動揺する。

その時、訳の分からない不思議な現象に混乱している彼女の耳に“声”が聞こえた。


「えりちゃーん!」


そう…懐かしく、可愛らしい『あの子』の声が…。

エリナは思わず、その方向へ目を向けた。

声がしたのは真上…晴れ渡った青空。

彼女の瞳に驚くべきものが映る。


何故なら…青空と同じく、透き通った妖精に似た光翼を広げて、こちらへ飛んでくる幼子がいたから。





【時を超えた再会】





「…ッ! ステラ!」


エリナは両手を広げて、舞い降りてきたソラを抱きしめた。


「ああ、ステラ…! あいたかった…」

「たらいま~(ただいま~)」


七年の月日を経て、一人の少女は美しい淑女となり、そして…小さな親友と再会を果たした。





【To Be Continued… ⇒ 【ファントムブラッド】編(2)

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