ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(1)


ジョースター家の屋敷、使用人達が集まる休憩室に、ソラはいた。


「あらあら、ステラちゃん」

「今日もきたのね」

「よかったら、クッキーはいかが?」


「あんがとー」


年配から若年層のメイド達は、ソラの事がお気に入りだ。

突如現れた小さなこねこにんの愛くるしさに胸を貫かれた。

多忙を極める彼女等にとって、ソラは癒しの妖精さんそのもの。


ソラは小さいが、彼女等の仕事の邪魔をする事無く、じっとその様子を観察する。

それで満足したら、また別の所へ移動していく。

ある意味、場をわきまえているというか、要領のいいところも人気の一つだ。

他の使用人達も、そんな彼女を好意的にみており、ほんの少し時間が空いたら遊んであげている人もいるようだ。



ソラがトコトコと玄関口を通ろうとした時、あっ…と声を漏らした。


「おいたのにーたん」

「…お前は…」


ディオと遭遇してしまった。

この時、ディオは目の前にいるこねこにんに対して、どう反応すればいいのか悩んだ。

なにせ、あの事件以降、警戒心の強い保護者代理のいけすかない赤毛男がどこかでマークしているのだ。

下手に、ちょっかいを出せば騒ぎになる…

それどころか、今まで築き上げてきたジョースター卿や他の使用人達の評判も落としかねない。


すると、ソラもまたふむ~と眉を潜めて何やら悩んでいるようだ。


「にーたん、おいたするん?」


ディオに向かってそう尋ねてきた。

彼女もまた、あの時の事を根に持っているのか、こちらの動きを警戒しているようだ。


(…警戒してるな。だが…ここで真っ正直に態度に出す程、俺は阿呆じゃない)


「しないよ」


爽やかな笑みを浮かべて、出来る限り友好的な態度で接した。

ソラはきょとんとした顔で、ディオを見ると、手に持っていた包み袋を開いて「あい」と中身を見せた。

先程、メイド達からもらった出来て間がないクッキーだ。


「これは…?」

「にーたん、とりゅ!」


舌足らずな口調で、ディオにクッキーをとるよう言った。

訝しげに眼を細めるディオに、真下にいるこねこにんはずいっと開いた包み袋を差し出す。

もしかして…クッキーを食べろ、と言いたいのか?


じぃーと目で促すソラに、何故か気圧されてしまい、ディオはクッキーをいくつか手ですくった。

この行動が正解かどうか、と恐る恐るソラに視線を向けると…


「あい~」


ソラは満足げに蕾が花を開いたような満面の笑みを浮かべていた。

初めてみるこねこにんの笑顔に、ディオはその刹那、時間がとまった感覚になった。





【『これで仲直り!』と言いたかったんだよ】





ディオがようやく気付いた時には、こねこにんの姿はそこにはなかった。

掌に乗せられているクッキー数枚から、じんわりと温もりが伝わる。


「……あいつは…」


ディオは、戸惑っていた。

本来の彼の性格なら、こんな物と地面へ容赦なく打ち捨てるだろう。

でも、あの怯えていた、警戒心むき出しだったこねこにんが…ステラが自分に対して満面の笑顔を向けた瞬間、彼の心にほんのり暖かさが生まれた。

あたかも、このクッキーのように…。



「……こんな、こんなのは俺じゃない。俺ではないんだ…」



胸を温かく包み込むこの感情は―――愛おしさ。

この当時の彼が、それを理解するにはまだ時間がかかった。





【To Be Continued… ⇒】

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