ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(1)
ソラは今日も、ジョナサンとエリナと遊んでいた。
エリナが花でつくった冠を、ソラの頭に乗せたり、ジョナサンも同じ冠をつくろうとしてなかなか上手くいかずに、それをダニーに食べられてしまったり…傍から見ていれば、ほのぼのした構図だ。
木の陰から、彼らの様子を観察しているアクセル。
あの意地悪な金髪の男子が、最近彼らにちょっかいをださないのが幸いだ。
まあ、仮によからぬ事をしたら、威嚇すればいい話だが…。
「ふーちゃん、楽しそうだね」
「まあな…」
彼の隣にいる、黒髪のショートヘアーの女の子がクスッと笑って言う。
彼女はシオン。
同じ組織のメンバーであり、アクセルの親友の一人でもある。
「いいな~…」
「ん? 何がだ?」
「あたし、同じ年頃の女の子友達が少ないから。
カイリは遠くにいるし、ナミネも最近は【レイディアントガーデン】にいるから会えないし…」
「なんだよ~…男友達じゃ、不服か?」
「そうじゃないけど…でも、同性同士でしか話せない事もあるから」
アクセルとそう会話を交わしつつ、シオンはジッとソラ達の方向を見つめる。
10歳年下の親友は、交流関係を広げたい気持ちが強いようだ。
羨望を含む眼差しに気づいたのか(いや、単になんとなく後ろを振り返っただけだろう)、ソラが「あ~」とこちらへ手を振る。
「あくたーん、しーちゃーん」
「あっ、あの人は…!」
「やべっ!」と、アクセルは木影に隠れようとするが、既にソラを抱えたジョナサンとエリナが歩いてやってきた。
「こんにちは! アクセルさん」
「先日は助けてくださり、ありがとうございました」
笑顔で挨拶をするジョナサンと、同じく助けてくれたお礼をいうエリナ。
木の後ろで姿を見せないアクセルを、ソラが「ふぅ?」と不思議そうに覗き込む。
シオンはコートの裾をクイッと引っ張って、「隠れても意味ないと思うよー」と小声で囁く。
四人の視線が集中する中、アクセルは暫く無言のまま。
五分経過して…
「よ、よぉ…」
仕方ないと判断したのか、アクセルはぎこちない笑みを浮かべて挙手して言葉を返す事となった。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
「はじめまして…えっと…シオンです」
「エリナよ。よろしく」
緊張気味のシオンに、エリナはにこやかに挨拶する。
ソラを間に挟んで、二人の少女は少しずつ会話をしていく。
「へぇ~…シオンって色んな所へ旅をしているのね」
「うん。お仕事が大半だけど、見た事のない土地や国、色んな人にいっぱい会える事が出来て新鮮に感じるんだ」
「すごい…なんだか小説の物語を読んでいるみたい…! もっと聞かせてもらえる?」
「うん、いいよ!」
「ふーたんも~」
女は順応力が高い。近くで、既に打ち解け合い、和気あいあいと語り合う女の子二人とこねこにんを眺めながら、アクセルはつくづくそう思った。
「アクセルさんは、どこからきたの?」
「ああ…うん、此処とは違う国かな」
何時の間にか、隣に座って質問を投げてくる男の子に、アクセルはどう答えればいいのか、苦戦している真っ最中だ。年頃はもう一人の親友とさほど変わらないのだが、好奇心と純粋な眼差しを向けられて、どこか話しづらそうだ。
「(どっからどこまで話せばいいんだ…難しいっつーの)」
世界の理は、無暗に人に語ってはならない。
世界同士が必要以上に干渉し合えば、秩序を乱す事にもつながる危険性があるからだ。
そのため、異世界を移動できる手段を持つ者は、その世界や住民に合わせた言動をとらなければならない。
さらに、注意する事は行く先々で出会う《人物》だ。
機関の制服であるコレは、目立つ衣装であるため、何かと人目を引いてしまうが、大半の人々はスルーしてくれる。しかし、中には知的探求心が強かったり、勘の鋭い人物もいて、そういうのに限って深々と足を突っ込む傾向がある。
アクセルを含める機関メンバーもそうだが、エクレシアもまたその点で厄介事に巻き込まれるケースが多い。
実際に、過去の旅路でエクレシアの何人かが、上記に該当する人物に目をつけられた事があった。
多くは、権力の誇示やエクレシアの力目当てで近づく輩だった…全てが該当する訳ではないが。
「あの…アクセルさん?」
「ん…? ああ、すまねぇ、ちょっと考え事してた」
ジョナサンに声をかけられ、別事を振り返っていた脳内を一旦、リセットした。
「…でどこまで話したっけ?」
「あの…父から聞きました。ステラの養子の件を断ったんですね」
ジョナサンが少し寂しげにその話題を切り出した。
彼の表情を横目で見つつ、アクセルは目を細める。
ああ、この少年は本気で待ち望んでいたのだ…小さなこねこにんが自分の妹になる事を。
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