ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


ハルノと同志になってから早三年が過ぎた。

俺を取り巻く環境はかなり変化していた。


まず、おふくろが再婚した。

…と言っても、シングルマザーだったおふくろにとっちゃ、初婚扱いになるだろうけど。

相手は、おふくろが働いてたバーで知り合った男だ。

それなりに名の知れてる会社の従業員で、学のある人だった。


あのだらしないおふくろが、急に料理をしだしたり、濃かった化粧をナチュラルメイクにしたり、俺の中では衝撃が走った。

今となっちゃ、男ができたからそいつの気を引くために家庭的なできる女になろうっていうおふくろの精神的な成長だったのだと思う。

でも、味見係の俺は毎回苦い思いをさせられた。

今まで遊び呆けて、家事全般をやった事がないんだ。

そんなスキルゼロな女の作る初めての料理は…不味いのが相場だろ?


ぶっちゃけ、俺が作った方が美味い。

手始めに「簡単な物から作ったらいいんじゃね?」と、簡単なサンドイッチとウインナーを焼いただけのものを手本として作ってみた。

それを食べたおふくろは、これでもかと目をでっかく開けて、俺を凝視して言った。


『あんた…いつから料理できるようになったの?』


そりゃ、あんたがやらないから自分でスキル上げるしかねえだろ。

そうツッコみたかったが、頭を叩かれるのが目に見えてたから曖昧に答えておいた。


再婚相手とも定期的に会う事になった。

…案の定、そいつは俺の存在に難色を示した。

まあ、当然の態度だろうな…付き合ってる女が子持ちなんて、結婚したら一児の父親になるんだ。

でも、そいつもそいつでおふくろを好きだという気持ちが強くって…最終的には、結婚を決めた。


その翌年に、二人の間に双子の娘ができた。

俺にとったら、父親違いの妹だ。

おふくろは妹二人を溺愛した。

ああ、貴方達は私達の宝よ…と愛おしげに呪文のように唱えるその姿を、俺は片隅でじっと聞いてて思った。

この人はこんな顔ができたんだ…と。

子どもに愛情を注げる要素があった事に、俺は驚き、若干嬉しく思い、そして…悲しかった。

何故なら、おふくろは俺に愛情を注ぐ事はなかったからだ。

過去の使い古した、そこらにある玩具みたいな存在にしか映っていなかった。


悲しかったけれど…でも、とうの昔に諦めがついていた俺は「仕方ない」と割り切るしかなかった。

住む家と学費を提供してくれてるし、義理父も、俺の事を居候扱いで素っ気ない態度だが、存在を認めてくれてるだけマシだ。


二人の機嫌を損ねないように、俺は自分の今後の計画を練っていく事にした。

フィンをあの結晶石から解放するために、金持ちになってやる! と豪語したものの、明確なプランはなかった。


有力な企業に就職する…とか?

でも、それだと学費がかなりかかってしまう。

ぶっちゃけ、おふくろと義理父が俺にそんなに学費を出してくれる見込みはない。

地元のスクールを卒業したら、適当に金を稼げる所で働け、と言われるのがオチだろう。


ちりんっとコーラが入っていた使い捨ての大きいペットボトルに小銭をいれる。

昼食に渡される金で崩したお釣りを、即席の貯金箱にいれるが日課だ。

二年前から始めて、大分小銭の量は増えている。


「…でも足りないんだよなー…」


どうすれば、金を稼げるのか…その悩みが日々、俺の頭の中でぐるぐるとまわっていた。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「手っ取り早く稼げる仕事がほしい」

「そんなものないよ」


机で頬杖をついて口にした俺の願望を、友達のウィルはやんわりとした口調で壊しやがった。


「分かってるよー…でも、俺は金持ちになりたい」

「ヴェルの気持ちは分かる。でも…そんなにうまい話はないって」


もしあったとしても、詐欺かオカルト的な勧誘がオチさ、とウィルは指摘する。

数年前までは泣き虫だったくせに、やけにリアリストになったな…こいつと心の中で毒づく。


「あーあー…裕福な家庭に生まれたかったぜ」

「裕福だとしても幸せになれるとは限らないよ…」


思わず言った愚痴に対して、ウィルは複雑そうな表情でそう反論した。

しまった…と俺は内心後悔した。

ウィルの両親は、随分前から夫婦仲が冷え切っていて、今は離婚調停中だ。

母親側で暮らしているウィルにとったら、さっきの何気ない言葉はNGワードに近いものなんだろう。


「悪い…そんなつもりで言ったんじゃあないんだ」

「ううん、気にしてないよ」


謝る俺を、ウィルは苦笑いして許してくれた。

いい奴だな…とウィルの人柄に感動していると、「あ、あの…」と間に入るように、知らない別のクラスの女子が声をかけてきた。


「ん…おれ?」

「これ…よかったら食べて」


女子は綺麗にラッピングされた小さい袋を俺に渡すと、きゃーと言って一目散に逃げてった。


「なんだありゃ?」

「開けてみたら?」


ニコニコと笑うウィルの言葉通りに、その袋を開けてみると…中には手作りクッキーが入ってた。


「おっ、うまそー…じゃなくて、なんであの女子、俺にこれを?」

「ヴェル…それラブレターみたいなものだよ」

「はあっ?」

「君って頭はいいのに、こーいう系の分野になると鈍いんだね」


ウィルは呆れ顔で、クッキーを一個つまんで食べる。


「…マジか?」


クッキーとウィルを交互に見て、俺はようやくその言葉の意味を理解していった。


「君って顔もいけてる方だし、成績も悪くないでしょ。運動神経はかなりあるほうだし…前から女子の間で人気あったよ」

「……初めて知った」


呆然とする俺をよそに、ウィルはクッキーをもう一個つまんで口へ入れる。


「僕から言わせてもらうと…気付くの遅すぎ。クラスの女子見てみなよ」


昼休みで数少ないクラスメートしかいない教室を観察してみる。

…言われてみれば、女子の視線がどこか熱い。

俺と目が合った瞬間に、顔を本で隠したり、きゃーと色めきだっている。


「どう? 感想は」

「…夢じゃねえよな」

「ぷっ、漫画のキャラみたいな台詞だねぇ。でもこれは現実。夢でも幻でもない、君の現状だよ」


ウィルは面白げにそう言いながら、クッキーをさらに一個口へ入れる。

俺は、友達のその言葉を聞きながらも、暫く半信半疑な気分が抜けなかった。

気付けば、クッキーの半分以上をウィルに食べられてしまってて…ガクリと肩を落とした。



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