ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(1)
空が暁色に染まり始めてきた。
帰路の時間となり、ジョナサンは名残惜しそうに二人に手を振る。
「エリナ、ステラ。また明日」
「ええ、明日」
「ばいばーい」
エリナの隣でトコトコ歩くソラ。
いつもは、ジョナサンについていくか、森の中で迎えが来るのを待つのだが、今日は何故かエリナと帰りたがった。妹のようなソラのささやかなお願いに、エリナも快く引き受けたのだ。
「ステラ、私このまま町の方へいっちゃうけどいいの?」
「うん。あくたん、くる」
“あくたん”と言うのは、ソラの保護者代理と名乗る男性の事だ。
エリナはまだお目にかかった事はないが、ジョナサンが言うには赤いツンツンした髪型の道化師のような人らしい。
「ステラは、その『あくたん』っていう人の事好きなのね」
「うん!」
エリナと楽しくお喋りしながら歩くソラ。
その時、ソラは何かを感じ取ったのか、ぴたりと足を止めた。
「ステラ?」
「ねーたん、あっち」
エリナのスカートの裾を掴んで、別の方向へいこうと言い出した。
でも、こっちに行かないと町にいけないのよ、とエリナは困った笑みで言い聞かせる。
それでも、ソラは「う~、だめぇ」と首をぶんぶん振って譲らない。
「どうして、このまま真っ直ぐ行ったらだめなの?」
「もやもや…いる」
―――“もやもや”
いつものほほんとした、笑っている顔が印象的なソラが眉を潜めて不快を露わにして言った言葉。
この先に、何か嫌なものがいる…そう言いたいのだろうか。
「ステラ、『もやもや』ってな…」
「やぁ、そこの君」
もやもやとは何なのか、ソラに訊こうとしたその時…呼ばれる声がした。
前方を見ると、金髪の少年と数人の取り巻きらしき男の子たちがいる。
「貴方は…?」
「君、さっきジョジョと一緒にいただろう」
綺麗な子だ…けれども、端正な顔立ちに冷たさを宿しており、エリナは怖く感じた。
「な、何…」
「随分とジョジョと親しくしていたようだが…」
少年が、エリナを腕を掴もうとしたその瞬間…
「やぁっ!」
「うっ…!」
ソラが持っていたぬいぐるみ(奇妙な顔のウサギ)を投げつけた。
ぽふっと音を立てて、それがその少年の顔面を覆った。
まだ一歳児位なのに、一回り違う身長の高い少年の顔に物を投げつけた事自体、ある意味凄い。
「おいたのにーたん、めっ!」
ソラは、その少年に一度会っていた…ジョースター家で。
友達のジョナサンに意地悪をしようとしたお兄ちゃん、ディオだ。
先程、エリナに近づこうとしたのは、何か悪い事をしようとしていたのだ。
幼いながらも、ソラは直感でそれを察してぬいぐるみで悪事を阻止したのだ。
突然、物を投げつけたソラに対して戸惑うエリナをよそに、ディオは顔面に張り付いた奇妙なウサギのぬいぐるみをガシッと鷲掴みすると、地面に叩きつけた。
「誰かと思ったら…この間の“妖精”じゃないか」
青筋を立てて、口元をひくつかせるディオ。
あまりの気迫に周りの取り巻き達はひっ…と情けない叫び声を漏らす。
怒りを表わす少年に対し、ソラもぶぅ…と頬を膨らませて彼を見つめる。
「いい度胸だ…このディオに物を投げつけるとはナァ。悪い子にはお説教した方がいいか…」
「ちょっと…まだこんな小さい子に大人げない事するつもりなの」
やめなさい、と両手を広げて、エリナは彼を止めようとする。
だが…ディオは邪魔をするな! と彼女をパシッと平手打ちして突き飛ばした。
地面に倒れるエリナを目にして、ソラは「ふぅ…!」と目を大きく見開いた。
「ねーたん!」
「その前に、お兄ちゃんにいう事があるだろう?」
エリナに近づこうとしたソラを、ディオが首元を掴んで持ち上げる。
「悪い事をしたら、謝るのが社会の基本だ。
まだ幼いからといって許される事じゃないんだよ。
さぁ…あやまれ」
不敵な笑みを浮かべて、ソラに謝罪するように要求する。
すると、ソラの瞳が徐々に潤んでいく。
「な、なぁ…ディオ。その辺にしておいた方が…」
「まだちっさい子だしさ…」
「これじゃあ、弱い者いじめになるぜ…」
「お前達は黙っていろ!」
取り巻き達もさすがにやりすぎだよ…と恐縮そうに窘めるが、ディオは一喝して沈黙させた。
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