ふたつのステラ 第1部 【ファントムブラッド】(1)


「…ありゃ完全に誤解しちまったな」


仲睦まじい少年少女と一緒に遊んでいるソラの様子を、木陰で見つめる赤毛の青年。

ソラが、自分の家族について語るや、二人は彼女を励ましたり、慈しむように抱きしめている。

青年…アクセルは、ソラの家庭事情を一応知っている。


ソラは、本来は此処とは違う、天界でもない異世界に生まれる予定だった。

父親が、特殊な術で千単位の月日を過ごした天使であり、その世界を実質支配していた少年の側近でなければ…普通の子どもに育つはずだった。

母親のアンナは、少年の部下に化け物に変えられてしまい、結果命を落としてしまった。

魂となったアンナの心身は傷ついており、10年もの間植物人間状態となっていた。

彼女が目を覚まし、その身に命を授かっていた事が発覚した時、担当医だったエクレシアは驚愕した、と後に語ってくれた。


アンナのようなケースはかなり珍しいからだ。

出産となると、身体に負担がかかってしまう…それでも、アンナは生む決意をした。

宿った命を犠牲にしたくない、という思いが強かったのもあるが、最愛の夫や息子と二度と会えない悲しみから抜け出したかったのもあるのだろう。


そして、ソラは生まれた。

生まれて間もなく、彼女はエクレシアの資質を見出され、ヴァルハラの創造神…レナスの推薦もあり、最年少で『神の卵』となった。

過去何千年を振り返っても、赤ん坊でエクレシアとなった事例はない…初めてだ。

何も知らない無垢な赤子は、たった数日でヴァルハラ出身の希少な神族となってしまった。


レナスのこの迅速な行動は、膨大な力を秘めたソラを良からぬ勢力が奪い取るのを防ぐため。

また、将来的にソラが力を暴走させないように傍において教育をしていくためでもあった。

出産の反動で、身体が弱くなってしまったアンナにソラを育てるのは難しいと判断したのもある。


ソラは、アンナと定期的にあっている。

離れ離れで生活しているものの、ソラは彼女の事をきちんと母親だと認識しているのが幸いだ。

それこそ、里親に出されていたら、アンナの精神が崩壊していたに違いない。

治療と懸命なリハビリを継続して、少しずつアンナは生前の調子を取り戻しつつあるが、まだソラと二人で生活するには至らない。そのため、ソラは他のエクレシア達によって育てられている。

個性が強い人もいるが、全員がソラを年下の仲間として、実の子どものように接している。

特に、アクセルの親友でもあるリエは子煩悩であるため、人一倍彼女を可愛がっている。


魂となった赤子は、現世で生きている子に比べて成長がゆっくりだ。

それでも、アクセルがソラを初めて見た時よりも、彼女は背がちょっとだけ伸びた…そんな気がする。



「あいつが大人になる頃には、俺は中年のおっさんになってんのかな…」



少年少女、犬と戯れるソラを遠目で見ながら、アクセルは穏やかに目を細めてそう呟いた。





【子の成長を願う親の気持ち】





天界【ヴァルハラ】の水鏡の間…創造主 レナスは清らかな泉に映し出される光景を静かに見ている。


「……予言通りになりそうね」


レナスは、水鏡に映る楽しそうに笑う幼子の身を案じていた。

彼女が懸念するもの…それは、とある予言者から告げられた言葉。



《幼き神の卵、散歩をするのは慎重に。

星をつかさどる一族の運命に巻き込まれてしまうから。

存続か改変か…大きな選択を強いられるだろう》



その予言者は、レナスがかつて選定したエインフェリアのひとり。

時折、エクレシア達の今後を《占い》という形でみてもらっているのだが…

今回、数人に影を落とす内容の結果が出た。


その中の一人がソラだった。

他のエクレシアならまだしても、重大な使命を背負わせるにはまだ幼すぎる子だ。

それ故に、ソラの正式な世話係と専属騎士を決めようとしていた矢先…この事態だ。


「…これも運命なのか」


レナスは目を細め、嘆息交じりに呟く。

これから起こるだろう、『星をつかさどる一族の宿命』と、それに巻き込まれる幼いエクレシア。

果たして…どんな物語を紡ぐのだろうか。





【To Be Continued… ⇒】

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