ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


『…イジョウがマスターカラノメッセージです』

「おい、待て」


ホーリー・トーカーの足元が宙に浮いて、立ち去る準備をしかけていたその時、承太郎が呼びとめた。


『ナニカ?』

「フィンは今…イタリアのマフィアの巣窟にいるんだろう。そのメッセージ、脅迫されて無理やり作らされたものじゃねえのか?」

「ホーリー・トーカー…彼女は酷い目にあわされていないかい? 本当の事を教えてくれないか…?」


親友の質問に乗じて、花京院も切実な眼差しでホーリー・トーカーに訴えた。


『ワタシハ、マスターのデンゴンをアリノママおツタエしました。ナゼ、ウソイツワリをノベルヒツヨウがあるのデスカ?』


ホーリー・トーカーは口元を尖らせ、不愉快そうな口調で二人に対しそう言い放った。


『ハナシはイジョウです。ソレデハごキゲンよう…』

「させると思うか?」


承太郎が気迫を伴った顔で、ホーリー・トーカーへ鋭い視線を投げつけ、背後からスタンド『スタープラチナ』を出現させた。

承太郎がスタンドを出した事で、ホーリー・トーカーも反射的に身構える。


『クウジョーさん、ドウイウつもりデスカ?』

「フィンと直接話をさせろ。あいつの事だ…厄介事に巻き込まれて、抜けるに抜けられねえ状況になったんだろう」


だから、お前を返すわけにはいかない。

そう言って、承太郎が『スタープラチナ』に命じて捕えようとした…が、


  ―――バシッ!


『スタープラチナ』の逞しい腕を、ホーリー・トーカーは足で受け止め、払いのけた。

思わぬ不意打ちに、承太郎は目を見開いて、同時に『スタープラチナ』も警戒するように腕を構え直す。

その隙をついて、ホーリー・トーカーは高らかに宙を飛んで、出入り口の扉へ行こうとした。


「させない」

『……!?』


扉のノブに手をかけようとしたホーリー・トーカーに向かって、光るエネルギー弾が発射された。

ホーリー・トーカーは瞬時にそれを避けた…エネルギー弾が命中した扉に近い壁には中サイズのクレーターのあとができている。


『カキョウインさん、アナタもデスカ…』


彼女(?)の言葉で、ロクサスとシオンがパッと視線を移すと、花京院の隣に、黄緑色の人型のスタンド『ハイエロファントグリーン(法皇の緑)』が現れていた。


「こんなやり方はスマートじゃないのは解っている。でも、僕等は早急に君の本体を…フィンを保護しなきゃいけない。だから…君を逃がす訳にはいかない!」


彼の言葉を合図に、双方は瞬時に行動に出た。

承太郎が跳躍して『スター・プラチナ』で拳を振るおうとすると、ホーリー・トーカーはそれを器用に回避する。


「ロクサス君、シオン君。君達は安全な所に避難しててくれ…“エメラルドスプラッシュ”!」


ロクサスとシオンに避難勧告すると、花京院は『ハイエロファントグリーン』の必殺技…先程のエネルギー弾を発射していく。

バン、バン、バンと連続してその必殺技を炸裂させていき、部屋中に爆発音が鳴り響き、粉塵で舞う。


『…ウデをアゲマシタね。カキョウインさん』


天井を足で器用に垂直にたち、ぼそっと感想を漏らすホーリー・トーカー。


「呑気にしてていいのか?」


承太郎が『スタープラチナ』を上空に飛ばし、拳を振り上げてきて、ホーリー・トーカー毎、床にたたきつけた。

ドガッとへばりつく形で落とされたが…起き上がったホーリー・トーカーはほとんど無傷だ。

すかさず、承太郎は間合いを詰めて『スター・プラチナ』の拳を繰り出す。


「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!」

『フィニフィニフィニフィニフィニッ!』


しかし、目にもとまらぬ速さのラッシュに、ホーリー・トーカーは同等の速さの足蹴りのラッシュで受け止め、相殺する。

互いに、拳と蹴りが衝突し合い、その余波が部屋全体に広がる。


「今だ!」

『……ッ!?』


承太郎がその一言を発するや、後方から『ハイエロファントグリーン』が身体の一部を利用してつくりあげた紐状の帯で、彼女を右腕と左足を拘束。

動きを止められたホーリー・トーカーに対し、追い打ちをかけて『スタープラチナ』が逃げぬよう、身体をガシッと羽交い締めにする。


「勝負あったな」

『ハタシテソウかな?』

「……なにッ!」


拘束されているはずのホーリー・トーカーが、いつの間にかロクサスとシオンの傍にいた。

その事に二人は勿論、承太郎と花京院は目を疑った。

花京院がすぐに視線を戻すと、捕えている彼女が細かな粒子となって、もう一体の身体へ吸収された。


『コレイジョウつきアッテると、ヒがクレマス。ニンムカンリョウしたので、サッサとカエラせてください。デハ……シーユーアゲイン』


そう言い残すと、ホーリー・トーカーはぱちんと指を鳴らすと身体が発光し、周囲を包み込む。

その刹那の眩い光に、承太郎達は眼を瞑ってしまう。

光が収まり、それぞれ目を徐に開けていくと、色とりどりの花弁が舞い、ホーリー・トーカーはいなくなっていた。




【『聖なる囁き』に嘘偽りはない】




「…逃げられたか」

「フィン…」


逃走してしまったホーリー・トーカー。

承太郎はやれやれだぜ…と溜息をつき、花京院は哀しそうに本体の名前を呼び、目を伏せる。


「…すごかったな…」


次から次に起きた出来事に、頭が少しついていけないロクサス。

ふと、隣にいるシオンをみると、彼女が両手に綺麗なリボンと生地でラッピングされた箱をもっていた。


「なにそれ…?」

「さっき…あのスタンドさんが別れ際にくれたの」


どうしよう、これ…と少し困った顔でロクサスに意見を求めるシオン。

すると、それに気づいた承太郎が「こっちにくれ」と要求してきたので、シオンは素直に渡した。

承太郎はテーブルに箱をおくと、花京院に視線で合図をする…彼もコクッと頷くと、慎重に封を解いた。

包装紙を解くと、そこから現れたのは金属製の缶。

さらに、それを開けると…中にはたくさんの種類のクッキーが敷き詰められていた。



《親友二人への謝罪と感謝の気持ちを込めて。

どうかお召し上がりくださいませ。

  フィン・スィエル・クレシミエント》



可愛い似顔絵を描いたメッセージも添えられていた。


「あいつ…」

「フィン…君は無事だと信じていいんだね…」


友のささやかなプレゼントに、承太郎が苦笑いし、花京院の瞳に微かな希望の色が宿る。


「なあ、シオン。さっきのスタンドが変身した『フィン』って人なんだけど…」


そんな二人の様子を見つめながら、ロクサスはある事をシオンに言った。


「…“リエさん”に雰囲気が似てなかったか?」

「うん…あたしもそう思った」


少年少女の何気ない会話は、承太郎達の耳まで届かなかった。

新たな謎が残ったまま、気づけば時計は夜の六時を指していた。





【つづく】

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