ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


「あっ…しまった」


外で洗濯物を干していたフィンは、ある事を思い出した。

ついこの間、戦友である空条承太郎と花京院典明に対して《結晶石から自力で脱出できたら会いに行く》という約束をしていた事を…。


「確か、リゾットさん達にアジトに連れてこられたのが3週間前。うわっ…約束の期日になる!」


慌てて、干していた洗濯物を全部回収すると、籠を両手で支えたまま、急ぎ足でリビングへ向かう。

「ん? どうした、フィン」

「あっ、ホルさん。リゾットさんはどちらに?」

「リーダーは、あ~…多分部屋だろ。…って言うか、洗濯物もったままいくのかよ」


前見えねーだろ、と苦笑いして指摘された事に、おおっ、そうだった…とフィンは籠をよいしょっと床へ置いた。


「そうだ、ホルさん。今日の夕食は何がいいですか?」

「ん~? そうだなぁ…俺的にはパスタよりもピッツァだな」


マルゲリータ頼むぜぇ、と飼い猫のにくきゅうを触りながら、手をひらひらと振るホルマジオ。

フィンは朗らかに笑い、「ヴァ・ベーネ(OKです)」と言うと、エプロンを外してリゾットの部屋へ向かった。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



「…マジか?」

「…ああ数分前にきたばかりの最新情報だ」


プロシュートはデスクに腰かけて、真剣な顔でリゾットに問い返す。

リゾットはノートパソコンを動かし、その画面を彼に見せる。


「“【眠り姫】の行方を捜せ”―――ボスが直々に、全構成員に命令を下したぞ」

「ベッラ・フォルツァ(お見事)! お前の推測通りだな」


部下からの賛辞に、リゾットはまあなと軽く笑う。

異空の園にいるはずの眠り姫が行方不明になった情報は、彼らが彼女を誘拐して数日後に、世界各地にジワジワと広まっていった。

眠り姫…フィン本人から直接聞いた話だが、あの【異空の園】の存在は有名であるものの、彼女は入る人物を制約していた。

子どもや親子連れ、普通の観光客は許可していたが、雑誌やテレビ局、メディア関係者などは絶対に通過できないように制御していたのだ。

理由は、派手に騒がれるのが嫌だったから。


フィンは人と関わるのは好きだ。

その反面、大げさに騒がれたり、礼儀知らずな特定の人物に住み場所を荒らされて、他の人に迷惑をかける行為をされるのは大嫌いだと言う。

そのため、入室制限をしていたのだが…

中には、妻子を連れて巧みに隠しカメラに収めるジャーナリストがいたり、スタンド能力者などは耐性があるのか、侵入を許してしまったらしい。

特に裏社会の関係者は、そういった工夫が上手であり、追い出すのになかなか苦労した…と溜息交じりで言っていた。

そして、パッショーネのボスも…例外なく、フィンを狙っていた。


裏の関係者はちょくちょく侵入していたので、誰がボスなのかは特定できない、とフィンは証言している。

その点は、ある程度予測していた。

なにせ、構成員のほとんどに素性を隠す徹底的な秘密主義だ。

眠っている彼女を前にしても、油断しないよう変装していた可能性は高い。


しかし、今回下された命令により、ボスが眠り姫を手中に入れようとしている噂は100%事実だと判明したのだ。

つまり、フィンの情報をちらつかせればいずれ、ボスの尻尾を掴める確率が高くなる。


「問題はどーやって、ボスを炙り出すか、だな」

「こちら側に、ソラがいる事は絶対に知られてはいけない。下手をすれば暗殺計画が漏れて、彼女を奪われた上に壊滅するかもしれん」

「解ってるよ。だけどよ…いざ、本命を狙うとなると、いい案が思い浮かばねえもんだなぁ」


順調な流れになったかと思えば、すぐに壁にぶつかってしまった。

まあ、物事がそう簡単に上手くいくなら、自分達の立場はもっと変わっているはずだ。


「ようやく、計画の序盤へこぎつけた所なんだ…着実に、敵の寝首を掻く為には時間もまた必要」

「“焦らず、急がず”ってか。根気のいる作業だなぁ~…」


かったるそうに言うプロシュート。

デスクに置いてある白い皿に乗せられたクッキー(フィンの手作り)を数枚とると、指先で口内へ放り込む。

ボリ、バリッと噛み応えありそうな音を出して咀嚼する部下を、リゾットはジッと見ている。


「味はどうだ?」

「おめえが作ったもんじゃねーだろ」

「今日は甘さ控えめだ」

「いいじゃねぇか。こんくらいの甘さが丁度いい」


プロシュートはそう言うと、ひょいっと二、三枚をとって再び口へ入れる。


「俺はもっと甘めが好みだ」

「ハッ、舌がお子様すぎんだよ。いらねえなら、これは俺がもらってもいいんだな…」


プロシュートは鼻で笑い、まだ半数近くあるクッキーの皿を掴もうとした…が、こらっ、とリゾットは軽く叩いて阻止した。


「“やる”とは一言も言ってないぞ」

「…お前、そーいうとこうるさいな」


やれやれ、とプロシュートは肩を竦めて皿を返した。

その時、トントンと扉をノックする音が響き、「失礼しまーす」と鈴が鳴る声が聞こえた。




40/67ページ
スキ