ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)


長い黒髪を6つに束ねた男性は、鏡の中からリーダーであるリゾットとフィンのその光景を眺めていた。

いや…正確に言えば、朝食をとろうとリビングまでいったのだが、彼らの和やかでほんのりと甘い雰囲気に突入していくのを躊躇い、傍観する形となったのだ。


(リーダー…もう帰っていたのか。しかも、フィンとやけに親しげに話してる…)


彼の名前はイルーゾォ。

鏡の中に世界を作り出し、出入りする事が出来るスタンド能力者だ。


イルーゾォは、フィンとは既に面識はある。

リゾットが不在中に、彼女はメンバーの食事をつくったり、脚の負担にならない程度に、簡単な掃除や洗濯をしてくれた娘だ。

男所帯であるチームに、突如現れた異性はミーチョ以来だ。

例えるなら、ミーチョは可愛らしいオリーブの小さな花。フィンは桃色のゼラニウムの花。

保護欲を駆り立てるマスコット的な存在であるミーチョとは、少し異なる癒しをもたらしてくれる貴重な女性だ。


たった五日しか経過していないが、フィンはチームの面々と普通にお喋りして、アジトの雰囲気に慣れつつある…意外と順応力も高い。


(…にしても、実感湧かないんだよなぁ…『神様見習い』って言われてもよ)


リゾットが、フィンを捕獲してきた理由を聞き、イルーゾォは言葉を失った。

動揺したり、ごくりと喉を鳴らしたり、ほとんどの奴らが驚愕を隠せていなかっただろう。


―――『《パッショーネ》を壊す』


暗殺チームが、組織の中で使い捨て扱いなのは解っていた。

リスクの高い仕事を回される割に、その対価はあまりにも見合わず、縄張りもないので、収入源は本業に限られている。


“ボスって、S気質なのかもしれないねぇ。だって、掟と忠誠をかざして、薄給な俺らを雁字搦めに縛り付けるだぜ?

俺らはボスにとって都合のいい女みたいなものなのさ。飴と鞭の比率が3:7…って所かな。うぅーん…M属性にはたまらないシチュエーションだ…!”


以前、メローネが恍惚した顔で言った言葉を思い出す。

はっきり言えば、そんなシチュエーションは嗚咽がするほど嫌なものだ。

言った張本人であるメローネも内心は、理不尽極まりないこの待遇に悪態をついているはずだ(半分は本音だろうが、そこはスルーする)。


他のメンバーも同じ気持ちだ。

組織への鬱屈や不満が溜まり、それらを発散する術がなく、アジト内は剣呑な鋭い空気がどこかしらに漂っていた。

リゾットの発言は、そんな彼らの声なき批判を代表していた。

表面上、感情が読み取れない彼もまた現状を憂いていたのだと解り、さらにいずれ組織に一矢報いようと画策している事を打ち明かしたのだ。


自らの野望を語った時のリゾットのあの表情が、彼の脳裏に強烈に焼き付いている。

無表情なあのリーダーが…激情に駆られ、己の内に秘めた野望を語ったあの顔を。


『これはあくまで俺が独断で決めた事だ。組織を重んじる者にとっては不愉快極まりない事だろう。暗殺計画もまだ構想を作り出したばかりだ。

到底成功できそうにない…穴だらけのガキが考える空想話にしか聞こえねえプランだ』

『だが、底辺で這いつくばるこの状況を変えたいと思う奴が此処にいるなら…! 俺がこれから侵そうとする無謀な“行為”に賛同する者がいるなら…!

無駄な言葉は言わない…ただ、“俺についてこい”』


…感動した。

イルーゾォだけじゃない。

周りをそれとなく見渡せば、メンバーも同じく歓喜に震えていた。

リゾットが、この暗殺チームの長にふさわしいのだと再認識した瞬間だった。


『…何故その事早く言わなかった! 阿呆か、てめえは!』

『プロシュートの言うとおりだ。俺達を巻き込まないように配慮したつもりか? そんな生温い気遣いなんていらねえ』


リゾットの…一人ですべてを背負いこもうとしたその姿勢を、仲間の内二人が責める。

プロシュートは、胸倉を掴んでリゾットの頬を一発殴った。

いきなり殴られて、一瞬ポカーンと呆気にとられるリゾットに対し、ソルベはその行動の意味を説明した。


『なんで俺達を頼らない! 足手纏いだっていいてぇのか!?』

『狩り甲斐のある獲物を独り占めするなんざ、人が悪いにも程があるぜ…狩った時の興奮は、大勢で分かち合うもんだ』


そうだろ、お前ら…とソルベが話を振った。

勿論、異を唱える者はいなかった。

組織は、はなからこちらの事を都合のいい道具にしているのだ。

刃向おうとなかろうと、自分達は碌な死に方をしない。

ならば…下手に犬死するよりも、チームの誇りをかけて戦い、命の花を散らせる方がマシである。

自分達の反旗で、ボスの正体を暴き貶める事で、パッショーネ全体に不信の種を落として、混乱に陥れるのも一興だ。


しかし、いくら戦うと豪語するとはいえ、真正面から向かう無謀はしない。

《下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる》ということわざがあるが、暗殺チームの構成員は9名。

現在、パッショーネに属している構成員はこちらの人数を覗けば、計745名。

おおよそ80倍の人数を相手にするのは、まず無理な話だ。


スタンドはあるが、他の構成員にも同様の能力を所持する者は少なくない。

下手にツッコんでいけば、返り討ちにあうのは明白だ。

それらを予測した上で…リゾットは力を欲している。


そのために…フィンを“捕獲”したのだ。



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