ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)
「めろたん、ねんね?」
床に顔をつけているメローネに、ソラが小さな手で頭をぺちぺち叩く。
「違うさ、ミーチョ。俺の脳天をプロシュートが刺激しただけだ!」
ソラの行動に反応したのか、メローネはガバッと起きた。
「ふぅ!」と驚いてぽふっと床に尻餅をついたソラ。
メローネは、床に落ちている先程の本を広げると…
「ミーチョはどう思う? この中でどれが好みだい?」
「ふぅ?」
あろうことか、今度はまだその点の知識について無知なソラに、その内容を見せてきた。
次の瞬間、メローネの頭上へ長い脚が降下した。
「てめぇ、幼児にまで腐ったもんみせつけんじゃあねえぞ、ごらぁ!」
「ぐっ…ソルべ、なんてディ・モールト強烈な蹴り、うぅ…ああ、いい!」
ソルべが間髪いれず足でグリグリと踏みつけているにも関わらず、メローネは恍惚した表情を浮かべる。
疑問符がいっぱい浮かんでいるソラを、もう一人の青年が抱きあげた。
「ミーチョは、こっちにくるッス」
「あっ、ぺっちゃん」
パイナップルのような髪型で、どこか愛嬌のある顔つきの青年だ。
ソラを両手で慎重に抱き上げると、プロシュートのもとへ連れていく。
「こいつはペッシ。俺が世話している新米だ」
「どうも、よろしくッス」
プロシュートは、ソラを片手で抱くと親指で舎弟であるペッシを紹介する。
ペッシは、ソファーに座るフィンに会釈する。
「宜しくお願いします。ペッシさん。それから…」
「あそこにいる変態は、メローネだ」
仲間の事をハッキリと変態と断言するプロシュート。
うん、確かに顔立ちは綺麗なのに、残念なタイプの人だ、と心の中でそう思った事は敢えて伏せておこう。
フィンは、うーん…と口元を手で押さえ、少しの間、考える仕草をすると、背中を擦って起き上がったメローネに視線を向けた。
「あの…メローネさん」
「ん? 俺の事呼んだ?」
「こちらの本の内容に関してですが…私、こういう事に疎いもので、ハッキリとした答えを差し上げる事ができません」
だから、また勉強しておきます…と言った。
フィンがそう答えるや、ソラ以外の周りがシーンと静まり返った。
(あれ…? 私まずい事言っちゃった…?)
内心、冷や汗を流していたフィンに対し、メローネはツカツカと歩いてくると、ガバッとフィンを抱擁した。
「…俺の質問に対してそんな答え言うなんて、君みたいなタイプ初めてだよ! ディ・モールト! ディ・モールト・ベネ!」
「は、はい…?」
上機嫌に抱きしめるメローネに、フィンはどう対応していいか判断しかねている。
「ああ~…フィン! 君がリーダーのお気に入りじゃあなかったら、君を俺が好みの色に染めてあげたのになぁ~。
せめて、キスの仕方だけでも教え…ぐふぅ!」
「「調子づくなこのアホ!/ボケがっ!」」
プロシュートとソルべの連携鉄槌により、三度床へ接吻する羽目になった。
こっちに逃げとこうか~と、苦笑するジェラードに促され、フィンは一階の空き部屋へソラと一緒に避難する事となった。
【メンバーとご対面】
「あの…メローネさん、大丈夫でしょうか?」
空き部屋に避難して数分、相変わらずメローネは二人の鉄槌にあっているようだ。
「あぁ…“アレ”はいつもの事さ。気にしないでくれ」
ジェラードは笑ってそう返すと、淹れたてのカプチーノをフィンに渡した。
はぁ…と頷きつつ、フィンは渡された飲み物を口にする。
「…で、俺達の事どう思った?」
ジェラードの顔から笑みが消え、真顔で質問をしてきた。
「そう固くならないでくれ。怖いなら『怖い』って言ってくれていいさ…ただ、フィン…これから君は嫌でも此処にいなきゃならなくなる。
その点については、脳みそに叩きこんでおいてくれないと困るんだ」
このアジトに連れてこられた時から、なんとなく予感はしていた。
否応にも、裏社会の人間と関わらなければならなくなる…と。
勿論、自分の思想と反する者が契約を求めてきたなら、断るつもりだが…。
『俺は、お前と契約する為なら、その身を賭ける覚悟はある』
あの夜、リゾットが言い放った宣言が頭をよぎる。
もしかしたら…と別の予感が湧きあがる。
「まだよく分かりませんが…今言える事は、“此処にいる人達は嫌いじゃありません”」
「……そっか」
その答えに安堵したのか、ジェラードは幾分表情を和らげて呟いた。
じゃあ、何か食べるもの持ってくると言って、彼が退室した後…床でぬいぐるみをしゃぶっていたソラが訊いてきた。
「ふぃんちゃん、どしたん?」
「うん?」
「ふぃんちゃん、ほっぺまっか(ほっぺた赤いよ)」
ソラに言われて、フィンは自ずと頬を手でさする。
「…ふーちゃん。これは私も覚悟しておいた方がいいかな…」
「ふぅ?」
うーんと悩ましそうに唸るフィンに、ソラは訳が解らず、きょとんと小首を傾げるしかなかった。
【つづく】
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