ふたつのステラ 第3.5部 目覚める星と反旗の暗殺者(アサッシーノ)
「すごいなぁ…本当に9年眠ってたのか? 髪がサラサラだな~」
「あっ、どうもです」
しゃきしゃき、とハサミを器用に操るジェラードが口にした賛美の言葉に、フィンは素直に返事した。
髪を切りたいのでハサミを貸してほしい、とお願いしたら、「じゃあ、俺がカットしてやろうか?」とジェラードが提案してきた。
此処で冷静に考えてもらいたい。
フィンがいる場所は、ギャングの一員が徘徊するアジトだ。
しかも、ギャングの深い闇を具現化させた暗殺チームだ。
そんな特殊な場所で、髪切ってあげようか? と言われたら、普通の感覚なら、全身が凍り付いてどうにもならなくなる。
…彼等が親切に、髪を切るという保証がないからだ。
それこそ、拷問されるんじゃないか、五体満足でいられるのか…疑心と恐怖で思考がパンクするだろう。
「えっ…いいんですか? それじゃあ…宜しくお願いします」
けれども、フィンはジェラードの提案をOKした。
あまりにも呑気というか、それとも度胸があるのか…と第三者がこの場にいればそう感想を言うかもしれない。
「どうだ、嬢ちゃん。ジェラードは腕がいいだろ?」
斜め右にあるテーブルで、ソラにドルチェを食べさせているソルベが聞いてきた。
「はい…プロの美容師みたいです」
「ハハハ、そう言ってもらえると嬉しいぜ」
「こいつはな、昔っから手先が器用なんだ。そこらにいるアマチュアよりも断然上だ」
「ソルベー、照れるじゃねーか~」
相方を真顔で褒めるソルベに、ジェラードは照れ笑いする。
会話しつつも、ハサミを滑らかに操り、髪をカットしていく。
軽く床につくほどあった髪がはらりはらりと落ちていく。
「よし、これでどうだい?」
20分後、ジェラードの完了合図で、軽く瞑っていた目を開けてみると…
「うわぁ…」
手渡された鏡をみると、そこには9年前と同じセミロングの自分がいた。
所々、シャギーをいれて毛量を減らしており、全体的にラフな感じになっている。
ソルベの言う通り、ジェラードの腕前は、本当にプロの美容師だというのは過言ではなさそうだ。
「…ありがとうございます」
髪を手先で撫でながら、ほんのりと笑みを浮かべて御礼を言った。
「気に入ってもらえて光栄だ」
「なかなか似合ってるぞ、フィンの嬢ちゃん」
「ふぃんちゃん、きりぇー(きれい)」
三人が各々コメントを言う中、入り口の扉がぎいっと開いた。
自ずとそちらに視線が移ると、三人の男性が入ってきた。
「よぉ…御目覚めのようだな、眠り姫さん」
一人は、異空の園でリゾットと同行していた金髪の美丈夫、プロシュート。
ソファーに座り、こちらを見ているフィンに気づくやゆっくり歩み寄り、彼女の肩に手を添える。
「あの時は質問する暇もなかったが…9年ぶりのシャバの空気はどうだ?」
友好口調で言う言動とは裏腹に、冷徹さを孕んだ瞳で見下ろされる。
「いいですね。とっても…」
口元を微かにあげてそう答えると、プロシュートは「…そうか」とやや拍子抜けした様に呟くと、肩から手を離した。
そんな二人のやり取りを、やや近距離から眺めている残りの二人。
一人は、金髪の青年だ。
左髪を後ろに撫でつけ、斜めにカットされた右髪、片目を塞いでいるアイマスクをつけて、ヘソを出した露出した変わった服装をしている。
「ふはぁ~、間近でみるとベリッシマじゃあないか! ディモールト・ベネ!」
些か興奮気味に、ぺろっと舌を舐め、怪しげに口角を上げる男性に、プロシュートは「おい」と低めの声で呼ぶ。
「メローネ…変な事するなよ。一応、客人なんだからな」
「解ってるさ。でも…『フィン』って言ったよね。君に聞きたい事がある」
「……はい?」
メローネは至極真面目な顔つきで、所持していた本を開いて、これを見てくれるかいと差し出す。
その内容に目を通してみると…
「えっ…!?」
「君はどれが好みなんだい? 番号を選んでもらえるかな?」
そこには、様々なキスの仕方が詳細に描かれていた。
「これはとっても重要な事なんだ。君がこの質問に対し、どんな答えをくれるのか、是非ともおし…ぐふぉ!?」
「すっこんでろ、変態野郎!」
プロシュートの拳が、メローネの頭に命中した。
地面に蹲る彼に、瞬きするフィン。
先程手渡された本のページをちらりとみて、すぐにプロシュートへ視線が移る。
「言っておくが、俺や他の奴らとこいつを同一視しないでくれ。こいつが特段、いかれた思考をしているだけだ」
「はぁ…」
プロシュートがハッキリした口調で、メローネと呼ばれるその人物に軽く足蹴りする。
未だに床とキスしているそのご本人を前に、なんとも言えない表情で見つめるしかないフィン。
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