【12】勧誘される者達


「…という訳で、二人を呼んだの」

「そうだったのか」

「おい、シオン」


いつになく張り切っている親友の少女に、アクセルは挙手した。


「お前の言いたい事はな…うん、分かった」

「よかった、うまく説明できたかなってちょっとだけ不安だったんだ」


シオンはほっとしたという心情を顔に露わにして笑う。



「リエが身ごもって暫くは動けねえんだな。

うん、あいつがそれを望んでるなら、俺は文句は言わねえ」



アクセルは、リエと敵対するラスボス…もといヴァンスの関係を知り、なおかつ彼等の複雑な諸事情を理解する数少ない一人である。

それから共にいるロクサスも同じだ。

今回、リエが妊娠してヴァンスの屋敷で出産まで過ごす事になった事態については驚きはあれど、めでたい事だと素直に思える。



「リエさん、子どもができたのかぁ…」

「うん、あたしも最初もその事聴いて、ビックリした」


目をぱちくりさせるロクサスに、シオンが和やかにリエの状況を語っていく。

喜ばしい事だと思う。

同時に、アクセルは後々発生するかもしれない事が頭の中にふわりと煙が立つように浮上して、面倒くさいと感じずにはいられなかった。



(…バレねえようにしても、長くて一年くらいか)



脳裏に、組織の銀髪の指導者とバラ侯爵…その他のメンバーの顔がちらほら浮かぶ。

特に、指導者がこの事実を目の当たりにすれば、暴走するだろう。

…以前、そうなりかけた事例があるから猶更だ。



(でも、まぁ…せいぜい行動を起こすとなりゃ、リエを組織におくか、

別の安全な場所へ連れて行くくらいだろ)



指導者…ゼムナスは、リエに無体を働くような真似はしない。

なにせ、リエとラスボス…二人が対立関係になった根本的な要因を作ったのが、彼の片割れであるハートレスなのだ。ゼムナスはその事情も相まって、リエとその血縁者に負い目を感じているためか、彼女らの領域にあまり深く入り込まないでいる(ラスボスは別)。

その点に関して、アクセルは彼の判断が適切だと思っている。


現在、そのハートレスがどこで何してるのかは不明(知っていたとしても、あんまり関わりたくない)だが、とりあえずこれ以上騒動を起こさないでもらいたい。

話が逸れてしまったが、アクセルがこの場所へ訪れた時から抱いた疑問を口にした。



「それで…この話をするために、なんで、俺達がトワイライトタウンのリエの家に集まらなきゃならねえんだ?」


「仕方ないよ。だって…城の中だと、ゼムナス達にバレちゃうでしょ」



シオンの言葉に、アクセルは「あぁー、ごもっとも」と納得した。

組織の城内は、ダスクなどの下級ノーバディが自由自在に移動している。

いくら人気のない場所にいたとしても、彼等は些細な事まで隠れて聞き耳を立てているのだ。



「リエさんもOKしてくれたよ。

定期的に掃除をする事を条件に、このお家を自由に使っていいって」


「じゃあ、此処で情報交換していくんだな」



ロクサスは合点がいったように頷くと、向かい側に座る人物へ向けた。



「そのとおーり。

お互い、硬くならずに気軽に茶でも飲んで話し合おうじゃねぇか」



ケラケラと笑いながら、気安く話しかけてくる男性…グリードに、アクセルは軽く溜息を漏らす。



「…まっさか、そっちとこんな形で協力する事になるとはなぁ。

ついさっきまで、考えてもいなかったよ」


「おいおい、この世の中に『ありえないなんて事はありえない』だろ?」



腕を組んで訝し気に目を細めるアクセルに対し、グリードは大仰に肩を竦める。



「お前らがいい代表例だ。

…つい何年か前まで世界を荒す側だった奴らが、守る側になった」


「……言われるとアレだが、否定できねえな」


「『事実は小説よりも奇なり』…世の中なんて、あっちこっちに奇怪な事が満載だ。

あの雇い主が、お前らに協力を仰ぐなんて不思議じゃねえだろ」



グリードはそう言いながら、コップに注がれた炭酸飲料をぐいっと飲み干す。


「つまりアレか? ヴァンスの依頼は…俺らに、組織を監視しとけって事か」

「話が早くていいねぇ。ぶっちゃけるとそんな感じだ」


話の最中、シオンが茶色のポテトチップスをこんもり入れた木製の容器を運んできた。


「甘い物もほしい?」

「そうだなぁ…あったっけ?」

「さっき、駄菓子屋さんで買ってきたのがあるよ」


ロクサスも椅子から立ち上がり、シオンと別の菓子の準備に取りかかる。

アクセルは、親友二人から視線を再びグリードへ戻し、話を再開する。


「構わねえよ。…で、そっちは見返りに何をくれるんだ?」

「そっちじゃ入手困難な裏情報」


こんなのがあるぜ…とグリードは所持していた紙の束の内、一枚を机に乗せた。

それを掴んで、ざっと目を通したアクセルはおぉっ…と感嘆交じりの声を漏らす。



「…マジか」


「もし、交渉相手がお前らの所のボスだったらこうはいかねえ。

それだけお前達三人が信頼されてるって意味だ」



俺の雇い主にな…とグリードはニヤリと口角を吊り上げる。


(…あの野郎、プレッシャーかけやがって…)


対して、アクセルはぞくりと鳥肌が立つ。

ラスボスは、どうやらアクセルが思っていた以上にこちらを評価しているようだ。

…ただ、解せない点もある。



「昔ならまだしも、今の俺達は組織の連中とは対立してねえぜ。

こっちがゼムナスの命を受けているリスクは考えないのか?」


「その点は見越してるぞ、あいつは」

「はっ…? ならなんで…」


「【あの銀髪男の命令で動いているのであれば、対処方法はいくらでもある】ってよ。要するに、裏切り云々以前にお前らをこっちに引き入れる算段があるから大して問題はねえと思ってるんだよ」



お前の性格上、奥方の味方に付くだろうから心配はしてなかったけどな…とグリードは喉を鳴らして笑う。

アクセルは冷や汗を流して思った。

…やべぇ、もうラスボスの網掛け網に入っちまったと。



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