【7】霊光の祈念


俺はどうすればいい…。

どうしたらいいんだ。

自問葛藤を繰り返す毎日、答えの見えない悲愴感が…つきまとう。


何故、こうなってしまったか…。

うちはも…里も…元々は異なる一族だった。


だが、この50年の間、諍いの種はあれど協力してきたはずだ。

どこから…両者は道を違えてしまったんだ。



「三代目は、話し合いを模索しているようだが…既に、制止するには不可能な段階だ」



眼前の男が諭すように言う。

顔の右目に包帯を巻いている男。

木ノ葉の暗部養成部門『根』のリーダーである『ダンゾウ』


昔、火影である猿飛ヒルゼン様と、三代目の座を争い…未だに権力に執着する亡者。

火影様と真反対の「情」など無用な典型的な合理主義者だ。

不愉快だが、暗部に所属する俺の「上司」にあたる人物だった。



「木ノ葉は…三代にわたりようやく地盤が安定してきた。

今、内乱が勃発すれば、里は勿論新たな戦の火種になりうる」



戦乱の悲惨さは痛いほど分かっていた。

幼いころより、戦場に駆り出されて、その凄惨な状況を目の当たりにしてきたからだ。


黒焦げた大地…。

戦地を覆い隠すほどの無数の屍。

焼けた人の肉や腐臭する遺体の悪臭…。


いつ殺されるやもしれぬ恐怖と戦に対する嫌悪と絶望…。

己の理性と本能が入り乱れる葛藤。

そして、最後に残るのは…喪失感と罪悪感。



まだ幼い俺にとって…あの光景がトラウマとなったのは言うまでもない。

この10年の間で、木ノ葉里は他の里とも条約を交わし、少しずつ平和への道を歩んでいた。

もし…今、一族がクーデターを起こせば、結果はどうであれ忍の世界全体のパワーバランスが崩れる。

ダンゾウの言う通り、里はおろか新たな大戦を引き起こす引き金になる。



「仮に、戦争になろうがなるまいが…

クーデターが起こった時点でどの道、うちはは全滅する運命にある。

……何も知らぬ弟も含めてな」



何故、俺は忍に生まれたのだろうか。

何故、人々は無益な争いを繰り広げるのか…。

人を理性を奪い、欲をもらたし…傷つけあうだけの「悲劇」の連鎖。

これ以上、悲劇を繰り返すのはもうたくさんだった。


まだ戦を知らないサスケさえも…

そんな負の渦へ堕ちていく運命になるのが耐えられない。

苦しい胸中を見透かすように…ダンゾウはある提案をしてきた。



「クーデター前なら、弟だけは助かる道もある」

「……」


「事が起こってしまえば、弟も全てを知る事になろう…。

木ノ葉の忍びにより、一族が抹殺されるのを目の前で見れば、木ノ葉への復讐心が生まれる。

そうなっては、もはや弟にも死んでもらうほかない」


「…それは脅しか?」

「イヤ、選択してほしいのだ」



うちは側について、家族一族と共に全滅するか…。

木ノ葉について、弟だけを残してうちはを全滅させるか…。


「里を想う気持ちはお前も同じ…この任務引き受けてくれるか?」


幼き日、守ろうと心に決めた…最愛の弟。

最早、凶行を止める事ができない一族。

俺の心は…既に答えを出していた。








満月が、冷たい闇夜で不気味に輝いていた。

見慣れたうちはの居住地。

この時間帯は、一族の警備が集落を巡回している時刻だ。


しかし、警備はおろか忍職でない一般人の姿さえもない。

――――その答えは至極簡単な事だ。

【俺】が集落にいる同胞をこの手で【抹殺】していったからだ。



「うわぁあああ」

――――『一人』


「や、やめて、やめてぇえええ!」

――――『一人』


「い…たち…やはり…裏切りも…の」

――――また『一人』



顔見知りの知人…アカデミーの同級生…親しい近所の住民まで…。

つい数秒前まで生きていた者達は、縦横無尽に駆け巡る「影」により屍と化す。

赤い瞳孔――――【写輪眼】をもつ同志により、1時間経たない内にほとんどのうちは一族は動かない「もの」へ成り果ててしまった。


そして…俺は…自分を生んで育ててくれた両親と対峙していた。

息子に背を向けて、床に座る二人は動揺する事無く、己の身に降りかかる事を予期して、静かに事を待っている。


「そうか…お前は向こうへついたか…」

「父さん…」


「……」

「母さん…」


ああ、俺は…なんと親不孝な子だ。

今の俺は…どんな顔をしているんだ?

父さん、母さん…貴方達は分かっているのだろうか。


「俺は……」

「分かっているわ…イタチ」


無言だった母が、覚悟を決めたようにそう言うと、顔を俯けて肩を震わせる。


「…イタチ、最後の約束をしろ」


父が発した言葉に、俺は目を見開く。


「サスケの事は頼んだぞ」


父は…愚かな俺に、最愛の息子…弟を託してくれた。

目から一筋の涙が頬を伝っていく。


「父さん、母さん!」


その刹那、手裏剣の訓練から帰宅した弟の声が聞こえた。

父が「来るんじゃない!」と制止する。

暗具を握る手がカタカタと震える…。



「恐れるな…それがお前の決めた道だろ。

お前に比べれば、我らの痛みは一瞬で終わる。

考え方は違っても…お前を誇りに思う。

お前は本当に優しい子だ…」



――――ザシュッ



事切れた肉親に視線を落とす最中…弟が…サスケが駆け込んできた。

木ノ葉の里…世界を守るために、俺はこの手で多くの同胞を…実の父母にさえ手をかけた。



「うそだ! こんなの兄さんじゃない!」

「――――己の器を量るためだ」

「ふざけんなァ!」



そう…これでいい。

サスケ、お前は巻き込まれなくていいんだ。

この虐殺事件の真相を…

一族が起こそうとした無謀な事を…

身を引き裂く残酷な真実を…。



「貴様など…殺す価値も無い…愚かなる弟よ…。

この俺を殺したくば恨め! 憎め! そして、みにくく生きのびるがいい…。

逃げて逃げて…生にしがみつくがいい。

―――そして、いつか俺と同じ“眼”を持って俺の前に来い」



俺が『反逆者』になる事で包み隠すのだ。

サスケを守るために…俺はこの日を境に【抜け忍】となった。

うちは一族が木ノ葉里の誉れ高い一族であると…

そして愚かな犯罪者が元凶だと、弟に信じ込ませるために。



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