【6】月夜の舞台に、来訪者は騒ぐ
【意識の無い状態の人は、起きている人よりも体重が重くなる】というのを誰かから聞いた事がある。
「はぁ~、疲れるかも…」
デミックスが、ボソリと呟きながら歩を進める。
「代わりましょうか?」とリエが言うと、デミックスは慌てて首を横に振る。
「いやいやいやいや、だいじょーぶ!
こうみえても、俺は力もちなんだよ!」
男のプライドと言うか、気になる女性の前では情けない姿を晒したくないのだ。
眠りにつくロクサスを音楽青年がおんぶして、リエを先頭に移動する。
すると…前方からズシーンという地震に近い騒音が足元に伝導してきた。
「わわわっ…まさか…この振動は!」
「この先で、戦闘が行われているようですね」
慎重な足取りでその現場までいくと…リエの予想は当たった。
――――立ちこめる粉塵と砂嵐
現在進行形で闘っているのは、機関の巨漢…レクセウスと白い巨体のピヨ。
レクセウスは、最早コートがボロボロの布切れ状態になっており、たくましい肉体をさらけ出していた。
一方の巨大ピヨも、まっ白な毛並みが泥と煤で所々彩られていた。
渦中の二人は、リエ達の気配に気付き、同時にサッとその方向へ顔を動かす。
「リエ…!」「嬢ちゃん!」
「レクセウスさん、エドワードさん…戦いを中断してもらえますか?」
(……つーか、今までガチンコ勝負してたの!
しかも、デカピヨの名前は【エドワード】って言うのかよ!?)
リエのお願いに、レクセウスとデカピヨ…もといエドワードの両者は互いに拳を下ろした。
「お二人とも、無益な争いは止めてください」
「グララララ、嬢ちゃん。これは、俺とこいつとの真剣勝負だ。
例え、ヴァンスのかみさんのあんたでもこの勝負は譲れねえ」
「うむ…。俺も同感だ」
二人が同意見を述べた事に、リエ…ではなく、背後にいるデミックスは「なんですと―――!!」と大口を開けて驚愕する。こういう場合は、隙をついて逃げるのが普通でしょう!と心の中で叫びたい心境である。
あんたら、何時の間にそんな男と男の拳で語り合うようなどこか汗臭い青春じみた絆を深めたんだ!と突っ込みたい気分だ。
だが…渦中の者達の気持ちは本物らしい。
レクセウスは、普段は場の空気を読み、状況に応じて行動を起こす順応力がある男性だ。
その彼が、いつになく言葉は少なめだけれども熱い口調でエドワードとの決闘を懇願している。
仲間と離れている間に、エドワードとの熱い拳の語り合いにより、彼との間に友情に近い感情が芽生えたのだ。
(なんで、この任務に限って緊急事態が勃発するんだよ!
どうしよう~、リエりーん!)
だが、音楽青年にとって偉い迷惑な話だった。
冒頭からピンチの連続、やっとの事で探し人を救い出し、捕まっていた仲間も見つけて帰路につけそうなのに…。よりにもよって、一番まともなメンバーが足を引っ張りそうになっている。
デミックスの訴えの眼差しを察したリエは、レクセウスとエドワードの説得を続行する。
「レクセウスさん、エドワードさん…あなた方のお気持ちは分かります。
互いに拳を交える事でしか語り合えない方法。
男性同士にしか分からない秘めた思いを分かち合うためのコミュニケーションの一種
―――《殴り愛》を止める事がお二人の心を踏みにじる行為だと認識しています」
(リエりん、この場合はとめる方がいいから! ラスボス来訪しちゃうから!)
デミックスがあわあわと心の声を言うべきか否か迷ってしまう。
リエは、レクセウスとエドワードを交互に見ながら言葉を続ける。
「でも…此処はあなた方の決闘の場にはふさわしくありません。
時と場合も考えて…別の機会に再戦する事をお願いします」
神妙な面持ちで懇願するリエ。
彼女が紡ぐ言霊は、人の心をゆっくりと揺り動かし…頑なな態度を解きほぐしていく。
レクセウスは…少し首を下げる。
「すまない…。俺とした事が冷静さを欠いていた」
「ふぅ、仕方ねぇな…」
エドワードも、やれやれと大きい手(ピヨだと丸っこい翼にあたる)で身体についた泥を払い落す。
リエの説得に、二人は応じてくれるようだ。
音楽青年がホッと胸を撫で下ろした瞬間…背後から爆音が響く。
黒灰色の爆風と共に、仮面のとれたリーシェが姿を現わす。
「早く逃げてください。そろそろ父さんがきます」
その予告通り、渦巻く煙の中からキーブレード片手にもったヴァンスらしき影が…薄らと現れる。
デミックスは「いやあぁああ、きたぁあああ!!」と大泣きしながら首を左右に振る。
レクセウスも警戒して身構える…。
だが…次の瞬間、彼らがいる真下に青白い色を放つ魔法陣が展開される。
既に姿を見せていたヴァンスは、眉を顰めてその術を発動させた術者――――リエに視線を向けた。
「また会いましょう…ヴァンス」
リエが柔らかく笑い、そう呟いた直後、機関員三人と共にその場から姿を消した。
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