【6】月夜の舞台に、来訪者は騒ぐ
「いけ! 早くせねば、【彼女】が…」
レクセウスは、アックスソードを片手に構え、白ピヨが繰り出す拳(正確には丸っこい羽)を食い止める。
そうだ、忘れていた…。
このまま、ヴァンスが本式契約を完成させたら…リエは、機関に戻れなくなる。
二度と、自分達と会えなくなってしまうかもしれないのだ。
デミックスは、震える身体を叱咤して、踵を返し、仲間が作りだした《道》を走り出した。
「おめえらぁああ、その若僧を逃がすなぁあああ!」
白ピヨの大声に、散らばっていた多数のピヨ達は、規律を正すと命令通り、一斉に逃走したデミックスを追撃していく。レクセウスは、それを細目で見つつも、目を白ピヨへと向け、交戦を繰り広げる。
「これで思う存分、戦えるだろう…お相手つかまつる!」
「グラララララ! 全力でかかってきな!」
高らかな笑い声が木霊し、庭の池に波紋を広げる。
レクセウスは、アックスソードを構え、疾走する…
…己の心を震わせる強敵と互いの《力》をぶつけ合わせる。
――――大地を轟かせる地響きが鳴り響いた。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
その頃、藍色の長い髪を揺らしながら、ヴァンスは屋敷の廊下を歩いていた。
しかし、常人の徒歩よりも、遥かに速い速度で移動している…最早、超人並だ。
そんな彼に忍び寄る白い影――――それらが、鋭い手先で背後…いや四方八方から襲い掛かってきた。
――――パシッ、バシッ
その刺客を指先一つ動かす事無く、消滅させた。
「……煩いねずみ風情が」
取るに足らない存在に目を向ける事無く、廊下へ進む。
ふと、歩を止めて前方を静かに見据える。
「シュヴァルツか…」
口から紡がれた名に反応して、黒い霧が発生し、シュヴァルツが姿を現す…。
同時に、彼女の足元には瞼を閉じてぐったりと倒れている少年がいた
――――ロクサスだ。
「ディアスよ…寵妃との契約は済ませたのか?」
「4分の1はな…。
だが、ネズミどもが煩い所為で、作業がはかどらん。
…何故、鍵使いのそいつが寝っ転がっている?」
「この影から生まれし子は、私に刃を向けた…それにこたえるのは必然の事。
結果は言わずとも分かるだろう」
シュヴァルツは淡々とした口調で、ロクサスとの戦闘時の出来事を語る。
倒れているロクサスの顔色は思わしくない
――――シュヴァルツから流れる負のオーラが、彼の身体には毒なのだ。
ヴァンスは、倒れているロクサスを片手で抱きかかえると踵を返した。
「ご苦労だった…契約の儀を再開する」
「ひとつ警告しておく…。
この者以外に、あと二人、寵妃を狙う輩が先へ行った」
振り返る事無く「助言感謝する」と言い残し、ヴァンスは闇の回廊へと姿を消す。
主が去った直後、シュヴァルツも黒い霧へと変化し、拡散した。
リエは、隙間風に身体を身震いさせる。
ヴァンスが退室してから、大分時間が経過した。
契約の途中であったため、彼女は毛布を身体にかけているものの、現在進行形で一糸纏わぬ姿だ。
「うぅ~、寒いな…」
もう少し、厚い布団は無いだろうか。
毛布一枚だけだと、寒さは軽減できるには物足りない。
それに気付いたさくたろうが、押し入れにトコトコと駆け出していく。
「リエさん、ちょっと待ってて下さい。
僕が布団を取り出すから…うりゅ~!!」
押し入れを開けた途端、多くの布団がばさりばさりと、地盤が緩んだ山で雪崩が起きたように、落ちてきた。
さくたろうは、その雪崩に巻き込まれてしまった。
「さくたろう君、大丈夫!?」
「うっ、うりゅー、たすけて~」
布団の隙間から、ポフッと顔を出し、ウゴウゴともがいて助けを呼ぶさくたろう。
リエは「大変…!」と言いながら、起き上がると布団の下敷きになっているさくたろうの救助にいく。
何重にも重なった敷布団を両手でずらしていく…
数分後、ライオンぬいぐるみは無事に生還を果たした。
「ありがとう、リエさん!
危うく窒息しそうになっちゃった」
「どこか痛い所はない? 大丈夫?」
心配そうに尋ねると、さくたろうは「だいじょうぶ!」と両手で万歳して元気な姿をアピールする。
ホッと胸を撫で下ろして、リエはさくたろうを両手で持ち上げようとした…瞬間だった。
ドタバタと些か煩い足音が、耳に入ってくる。
リエは、サッとさくたろうを片手で抱き上げると、畳に落ちていた毛布を引っ張って、身体に身につける。
足音が徐々に近くなる…。
さくたろうを両手に抱いたまま、月明かりで薄らと見える外の木々のシルエット…。
その中に、人型のものがあらわれた。
「うぁあああーん、リエりーん! どこぉおおお!」
聞き覚えのある青年の声と、その映し出された影…。
なにやら、多数の小さい物体が彼に纏わりついている…。
まさに死に物狂いで逃走しているといった方が適切だろう。
だが、その途中で足元を滑らせてしまい重力に従い、障子目掛けて倒れてきた。
期待を裏切らずに、見事、障子を突き破り、その部屋に傾れ込んだ。
その人物を目にして、リエは目を大きく見開く。
「デミックスさん!」
「あっ…」
髪や服のあちこちを、ピヨ達に突かれつつも、リエの声を耳に入れるや、畳に打ちつけた顔をむくっとあげる。
ようやく…念願の…一番会いたかった人物に出逢えた!
瞳をウルウルとさせながら、ガバッと立ち上がり、途中でよろめきながらもリエの元へ駆け出していく。
「リエりーん!」
両手を広げて、呆然と立ち尽くしているリエに抱擁を求めようとしたが……
あと少しという距離で地面に前のめりに倒れた。
「母さん、大丈夫ですか?」
ウサギ仮面が、手刀をかました事で。
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