【4】未来に繋がる邂逅
―――…ほぅ、珍しい。
俺の領域に足を踏み入れる奴がいるとはな…。
「……誰だ?」
ユーリは徐に瞼を開けた。
まだ眠気の所為で頭が朦朧としていたが、視界に映った光景に瞬時に目が覚めてしまう。
なぜなら、先ほどまでの自分の部屋とは全く別の空間が広がっているからだ。
今は太陽の光が降りしきり、ムシムシした湿度の高い暑さが漂う真夏の季節のはずが、晩秋の時期の如く、ヒヤリとした寒さが身体を震わせる。
昼から一気に、宵の時刻へ移り変わっている。
月明かりのない漆黒の闇が辺りを覆い尽くす。
なぜか…身体が勝手に動いていた。
本能的に気が付いていたのかもしれない。
『ココ』に立ち止まってはならないと。
苔類が生い茂る湿った土をクシャリクシャリと音を立てて歩いていく。
周囲が【夜】という事もあり、視界があまり良くない。
星や月があれば、その光が道標になるだろうが、それがないため、仕方なく前へとつき進んでいる状態だ。
「俺がなにやったって言うんだよ」
これは夢だろう…最初に頭に浮かんだ考えだ。
それなら、頬でも抓りさえすれば、さっさとこの場から自分の部屋へ戻る事が出来る。
しかし…なぜか彼はそれをしなかった。
正直、厄介事には関わりたくない。
だが、さっき、耳元に聴こえてきた…男の声が妙に気になった。
此処が夢の中であろうとも、ユーリにとっては下町同様に自分の居場所に値するものだ。
それを訳の分からない第三者に踏み入られたとなると…どうにも不快な気持ちが湧きたつのだ。
一言、文句言ってやる…夢から覚めるのはそれからでも遅くはない。
ユーリは、鬱蒼と生い茂る草木を払いのけながら、暫く歩き続けた。
そして…草木が徐々に少なくなり、とうとうゴール地点らしき場所にたどり着いた。
そこには…空高くそびえ立つ巨大な大樹が、その空間に存在を示していた。
その大樹の根元に足を崩して座る一人の男……。
ユーリはその男に視線を移して、近づいていく。
すると、ユーリが声をかける前に男は口を開いた
「…ここまで辿り着くとはな」
「あんたか…さっきの声の主は」
「ああ、そうだ」
男は含みのある笑いを浮かべながら、その青年の面白そうに見つめる。
ユーリは、眉を僅かにあげる。
男の不敵な笑みに対して、内心ムカついたのもあるが、一目見た瞬間から、この男自身が纏う空気が尋常でないと察したからだ。
闇に溶け込む藍色の髪…
…まるで全ての物事を見通すような翡翠色の切れ目の双眸。
『美丈夫』と呼ぶにふさわしく、おそらく世の女性を虜にする魔性の容姿。
そして、その男から放たれる…深淵の如く、計り知れない闇の覇気。
この気圧に耐えられる人間はほとんど皆無に等しい。
大抵の者は一瞬で失神するか、その妖気に呑みこまれてしまう。
だが、ユーリは眼前の男に対し、気落ちせずに溜息を洩らして呟いた。
「わりーけど、此処からさっさと出て行ってくれないか?
夢の中まで面倒事につき合うのはごめんだからな」
ユーリの口から出てきた言葉は、男に対する文句だった。
それを聴いた男は一瞬意外そうな表情となり、徐々に口角をあげていく。
「くっ…クハハハハッ!」
「何が可笑しいんだよ」
突然、高笑いしだしたその男の態度に、ユーリは大いに眉を顰める。
男はさも愉快そうにこう返答した。
「…いや、お前の言動があまりにも滑稽かつ大胆な物言いだと思ったからだ」
「そりゃ、人の夢にヅカヅカと土足で入られたら文句の一つや二つも言いたくなるだろーが」
怪訝そうな表情で言うユーリに、男は目を細めながら視線を向ける。
その時、強烈な風撃がユーリの腹部に命中した。
ユーリは背中から近くの樹木に吹き飛ばされる。
――――ッ…あいつ、いつ攻撃を……
背中からくる痛みよりも、顔は驚きと疑問の色に染まる。
攻撃を仕掛けた男に再度目を向けると…
その男は先の表情から、感情のない面持ちへ変化し…冷徹な瞳でユーリを見下ろす。
「その言葉…そっくりそのまま返してやる。
不法侵入者は貴様だ、ユーリ・ローウェル」
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