【4】未来に繋がる邂逅


『眠り』とは俺にとって、趣味の一環でもあり、愚者共が襲来や謀を仕掛けてこない安らぎの一時だ。

夢路の世界は、各個人の内側に存在する深層部分。

すなわち、一種の領域(テリトリー)だ。



《 夢の領域では、他者は訪れず、介入せず、侵害せず 》



どの種族においても、それは遵守すべき事柄だと思っている

…寧ろ『守れ』と言いたい。

だが、そんな約束事は実際には確約されていない。ましてや法律なんぞ存在しない。


……事実、俺の夢路の領域に入り込んだ『恐れ知らず』がいた。

まぁ、そいつは…意外と興味深い奴だったがな…。





【未来に繋がる邂逅】





黒髪の青年は、窓から景色を見つめていた。

彼の瞳に映るのは…自分が住んでいる下町の風景。


立ち並ぶ質素な家屋。

隣接した家屋の間を延びる道は狭く、建物が密集する構造ゆえに光があまり入らずに暗い。

決して華やかとはいえないが、暮らしている住民たちは義理や人情に厚い人々ばかり。

困った事があればお互い様。助けあい、協力し合うなど隣人同士の繋がりが強い。


青年から見れば、特権を振りかざすだけの貴族階級や帝城の人間が暮らす上層部よりも、よっぽどまともな場所だと自負できる。



青年はふと、視線を部屋の寝床に移す。

シンプルな造りのベッド…その横で一頭の大きな犬が床に伏せて目を閉じている。


「今日も相変わらず…か」


変わらない日常…些細な小競り合いはあるものの、誰もが平和な日々が続けられるのは、この街を覆う《結界》の恩恵があるからだ。


凶暴な魔物たちから、人々を守る魔道器(ブラスティア)。

この街の頂上に、空に重なって浮かぶ鮮やかな光輪がそれにあたる。

人々に安らかな日常を与える反面、それに依存して、外界への接触がほとんど遮断されている。


わざわざ危険に満ちた外界に赴くよりも、安全な領域で居を構え、一生を過ごす…

…それがこの世界の常識でもある。

しかし…それに物足りなさを感じる者たちも少なからずいる。

青年…ユーリ・ローウェルもその一人であった。

  

ユーリは、外の世界に行こうと思えば行けた。

冒険者や旅行者、交易を専門とするギルドの商人が外界へ赴くのは珍しい光景でもない。

しかし興味はあるものの、外界へ旅立つ意志はなかった。

なぜなら、彼は守るものがあるからだ。

生まれ育った下町を…そこに住む住民達を。


この街、ザーフィアスはこの世界の帝都であり、それに見合うくらいの巨大な都市だ。

その一方で、身分の格差もハッキリしており、貴族階級が市民よりも優位な立場にある。

それ故に、特権階級と市民…とりわけ下級階級の間の諍いは絶えない。


その現状を変えたい…

…少年時代からずっと感じていた。

その夢を叶えるために、青年は帝都の騎士団へ入団した。



―――しかし…夢と現実の差に落胆した。

騎士団もまた、特権階級の者達が独占しており、目の前で困っている市民よりも、貴族階級を重視する傾向が強かった。

ユーリはその腐敗ぶりに失望し、騎士団を止めた。幼馴染の親友の説得も振り切って。


(俺は、俺のやり方で下町を守る)


そう言った時の、親友の寂しそうな顔が脳裏によぎる。

そして現在、ユーリは些細な小競り合いを解決しながら、日々の生活を過ごしている。



……だが、彼は知っていた。

今のままだと根本的な解決には至らない事を。

騎士団にいる親友は、少しずつだが着実に出世していった。

少しでも、自分の夢を叶えるために努力をした成果が実ったのだ。


それに引き換え、自分は…何も変わっていない。

変えられない現状を前にくすぶっているだけだ。


……このままでいいのか。

胸を占める焦燥感に、ユーリは苛立ちを覚える。

座っていた窓の枠から、ベッドへドサッと倒れこむ。



「……ったく」


いくら考えても埒があかない。

ユーリは、頭の中でモヤモヤと漂う悩みを吹き消そうと、そのまま瞼を閉じた。

その時、腕に身につけるアクセサリー…武醒魔導器(ボーディブラスティア)が俄かが青紫色の光を放った事を……彼はこの時点で知る由もなかった。



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