【3】その客人、酔狂
一方、庭掃除をしていたイオンは、作業に疲れて一休みしていた。
「お腹空いたな、今日の昼食はどうするんだろう…」
縁側に座り、ブラブラと足をバタつかせている。
そよそよと涼しい風が吹き、周囲の木々が靡いている。
その時、イオンは目を細める。
屋敷の周辺から、ある匂いがしてきたからだ。
イオンは立ち上がり、少し声を上げて呟く。
「バレバレだよ、さっさと出てくれば?」
屋敷の屋根、塀、裏口などから…
周囲を取り囲むように、見知らぬ客人、もとい侵入者たちがぞろぞろと出現する。
侵入者はそれぞれ黒いスーツに、忍装束、どこかの白い制服…と身に付けている服装にバラつきがある。
おそらく、各人が違う組織に属する、あるいは雇われた者達なのだろう。
――――彼らの狙いは『客人』もしくは…
「悪いが、此処の主人をだしてもらおうか」
ガラの悪そうなリーダー格の黒スーツの男が、一歩前に出て要件を言ってきた。
だが……
「馬鹿じゃない?
ヴァンスがあんた達に協力するなんて、天地が引っくり返っても有り得ないよ」
主人も主人なら……部下も部下。
不法侵入者どもに対し、見下すような眼で冷笑を浮かべる。
10代前半の子どもの暴言に、年甲斐もなく、敵側は殺気を露にする。
「いい度胸じゃねーか、ガキの分際で」
「おい、俺達の標的はあの男だぞ」
「うるせぇ、今はこの生意気なガキを始末するのが先だ」
ガチャッと拳銃を構える男。
それに伴い、各人が武器を手にして襲いかかろうとする。
しかし…次の瞬間、そのリーダー格の男が呻き声を出した。
「ぐわっ…」
「全く…相手をわざわざ挑発してどうする」
男の背中には、複数のクナイが突き刺さっていた。
血飛沫を上げて、倒れる男の後ろには、忍装束を身に纏ったイタチが立っていた。
「だって、こいつらがあまりにも馬鹿馬鹿しい事を言うんだ」
「今は客人がいらしているというのに…あまり事を荒立たせるのは…」
――――ズシャッ
イタチの背後から襲い掛かった忍が、後ろ側にある大木へ吹き飛ばされる。
気づけば、いつの間にか俊足で移動したイオンが、忍の腹部に拳で強烈な突きをかましていたのだ。
薄ら笑みを零して、イオンは言った。
「イタチ、隙だらけだよ」
「そうか…じゃあ、俺の後ろは任せる」
二人を警戒しつつも、取り囲む大勢の敵。
ジリジリと中央に追いつめられるイタチとイオン。
――――さすがに戦闘に優れている者でも、人数的にはこちらが上。
団体で立ち向かえば、すぐに仕留められると侵入者たちは腹の中でせせら笑っていた。
…しかし、彼らはこの後、自分達が愚かな判断をした事を後悔する
――――この二人の手によって。
会談は終盤に差し掛かっていた。
ヴィンセントは、右腕の腕時計に目をやると、既に時計の針は1時を指していた。
「すっかり話し込んでしまったね…
…そろそろお暇するよ」
「そうか」
「それじゃあ、次の会談は1ヵ月後に…」
その会話の途中で、外から激しい銃声や悲鳴が鳴り響く。
しかし、当の主役であるヴァンスとヴィンセントはそれに動じる事無く、会話を続ける。
「どうやら、君は予想以上に人気があるようだね」
「フ、お前もな」
互いに笑いながら、椅子から立ち上がるヴァンスとヴィンセント。
――――ダァンッ
――――ドスッ
「ぐわぁッ!」「ぐぉ…」
立ち上がる瞬間、ヴィンセントは懐から取り出した拳銃を天井に一発発射し、
ヴァンスはキーブレードを勢いよく床に突き刺す。
それらは、見事に上と下に潜伏していた刺客達に致命傷を喰らわせた。
天井からは、ポタリポタリと紅色の液体が流れおち、その部分が徐々に赤一色に染まっていく。
「やれやれ…今度、傘下の警備会社を紹介しようか?
いい『虫』除けになるよ。
…きっと」
「その前に天井の弁償をしろ。
掃除がめんどいからな」
「ハハハ、分かったよ」
何事もなかったかのように、会話を交わす二人。
その爽やかな笑顔と不敵な笑みは、未だに潜んでいる残党を震え上がらせ、戦意喪失にさせた。
――――潜入者は悟った。
これ以上の接触は危険であると。
……自分達とは遥かに格が違う事を否応にも認識させられたのだった。
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