第25話【始まりのきっかけ】


あたしらとリーシェとの関係に転機が訪れたのは…【あの事件】の時。

その日はいつも通り、ゴミ山で遊んでいた。

暫くして不穏な気配を察知した…そしたら、見知らぬ男達がやってきて他の子どもを連れ去ろうとしていた。


「ひぃ…ふぅ、み、結構な数のガキがいるな」

「中には上玉もいるじゃねーか…こりゃ高値で売れそうだぁ」


厭らしそうな面構えをした男達。

そいつらに殺気を隠さずに対峙するクロロ。

あたしとシャルは、殴られたり、怯えている他の子を守るだけで精いっぱいだった。


流星街は裏社会と蜜月の相互関係を築いている。

その一方で、それを隠れ蓑にしたルール違反をする馬鹿共もいる。

…よりにもよって、あたしらはそいつらと遭遇してしまった。


大体の奴らは雑魚なのか、クロロの殺気に怯えているけれど、主犯格の男だけは別格だ。



「このガキぃいいい、俺の頬を傷つけやがってっぇえええ!!」



クロロがナイフで攻撃を仕掛けるや、男は血を見るや豹変してクロロを殴り飛ばした。


「シャル、マチ、その子達を連れて逃げろ!」

「で、でも…クロロは…」

「シャル! 今は逃げるんだ!」


必死に、他の子ども達を連れて逃げようとした。

でも、男の仲間達に囲まれてしまって身動きが取れなくなった。

どうすればいいの…と頭を回転させていたその時、ガタッと物音が聞こえた。


あたしの視線の先には、あの子…リーシェがいた。

なんでこんな時に…!



「おぉ~、なかなか上玉じゃねえか」



主犯格の男がクロロを蹴るのを中断して、リーシェに近づこうとした。


「リーシェ、逃げるんだ!」


クロロが血相を変えて叫んだ。

このままだと…リーシェまで捕まってしまう。


「リーシェ…!」


いつになく大声をあげていた。

あんな下劣な輩の手が、リーシェに触れる事自体…許せなかった。

駆けていきたいのに、障害が邪魔して動けない。


「ほーら、いい子だ。おにいちゃんたちといっしょにこようねぇ~」

「その子に触るなァアアア!」


主犯格の男の気持ち悪い声とクロロの怒声が重なり合う。

男の手が、リーシェの手を捉えようとした…その時だった。



「うっ…ぁあああああ!!



リーシェが目を瞑って悲鳴を上げた。

その刹那、彼女の身体が輝きだして、物凄いオーラが放出しだした。


「なに…ぐあっ…ッ!」


主犯格の男の掌が血の色で染まった。

正確に言えば、リーシェの周りから出現した無数の氷の刃が刺さったのだ。

手だけでなく、目、額、喉、口、心臓…ありとあらゆる箇所を氷の刃で串刺しにされて、主犯格の男は数分で肉体が「肉塊」へと変貌した。


奴の仲間達も氷漬けにされたり、同様に刃で貫かれて絶命した。

ほんの一瞬…瞬きを数回する程度の時間で、リーシェは人身売買の連中を物言わぬ骸へ変えてしまったのだ。



「ッ!…リーシェ!」



そして、力を使いすぎたせいでリーシェは倒れてしまった。

あまりの急展開に、あたしの頭はパンクしそうだった。

シャルが泣いている他の子ども達を励ましている傍らで、暫く座り込んでしまっていた。







ようやく平静さを取り戻せたのは三十分経過した頃だ。

周りの住民達が騒ぎを聞きつけて集まってきて…シャルや他の子ども達が事情を話していた。


「…リーシェ」


あたしの目に映ったのは…目を開ける気配のない顔色の悪いリーシェ。

そして、彼女を抱きかかえて助けを呼ぶクロロの姿。


「リーシェ!」


一人の大人が血相を変えて駆け込んできた。

クロロからリーシェを奪い取る形で、彼女を横抱きにすると急いでその場から立ち去ろうとした。


「待って!」

「悪いが、お前はそこの医師に診てもらえ。この子を急いで治さなきゃならん」

「リーシェといっしょにいたいんだ!」

「だーかーらー、急いでるから足にしがみつくな! 動けねえだろ!!」


「はよ離せ!」と青筋を立てて怒鳴るこの男性が、リーシェの養親だと分かったのは…数分後。

その場にいた大人の一人が、クロロを落ち着かせるためにその事を教えてくれた。

足が自由になるや、その男性…タカフミ・スドウは駿足で家へ向かった。

クロロもすぐさま彼の後を追ったので、あたしとシャルもついていく。


タカフミ…タカさんは、勝手についてきたあたしらに眉を顰めていたけど、リーシェの治療を優先するために黙認してくれた。

タカさんとリーシェが暮らしている家は、見た目はオンボロだけど、中はありえないくらい綺麗な造りだった。


「リーシェ…どうなったんだろ」

「…分からない」


奥の部屋で、リーシェの治療は行われている。

ただ待つだけの時間が…胸を締め付けられるくらいに苦しいなんて思わなかった。


クロロは此処に来てから喋っていない。

治療部屋を一点集中して見つめている。

今にもあの子の元へ行きたくて、行きたくて仕方がないのに…逸る気持ちを抑えるために理性を働かせていた。


話しかけたらダメだと思った。

あたしが何か言ったら、ギリギリで繋ぎとめている理性の糸がぷつりと切れてしまいそうだったから。



「……リーシェ!」



タカさんの安堵の声が響いたのは…その時だった。




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