第24話【真夜中の招かれざる客】
静かな地下の空間に奏でられる…牢番達の寝息。
雑音に値するいびきでも、シャルナークには退屈凌ぎのためのゲームのBGMに思えてしまう。
「そろそろ出てきなよ」
シャルナークが楽しそうにそう言うと、物陰からひょこっと謎の人物が顔を出した。
身長が低く長い髪で顔を隠しており、髪の隙間から大きな瞳をちらつかせている。
傍から見ても大いに目立つ特徴なのに、城に堂々と入り込んで此処までやってきた。
…その時点で只者ではない。
すっかり熟睡している男二人になんて目にもくれず、侵入したその人物はスタスタと移動していく。
「やぁ、お待たせ」
「うん、久しぶりだね。コルトピ」
檻の中にいるシャルナークに軽く挨拶すると、その人物…コルトピ・トノフメイルは寝ている牢番から奪った鍵で牢屋の扉を開けた。
「ふぅ~、やっと出られた」
「顔色は…悪くないね。手荒な真似はされなかったの?」
コルトピははてな…と首を傾げる。
「囚われた」と聞いていたので、てっきり兵士に身体的な話し合いをされていたと思っていたが、予想外に元気だった。
「上から非人道的な事はするなって命令されていたから、そこのを含めて兵士さん達には紳士的な対応をされたよ」
「ふーん、運が良かったね」
「あっ、一人だけ違反者がいたな。力づくできたから、お望みどおりに答えてあげたけどね」
シャルナークは失笑しながら語る。
随分と上昇志向が強い男だったから、一撃で沈めた時に耳元であれこれと囁いてやった。
ほんのちょっとしたアドバイスのつもりだったが…プライドの高そうな兵士はどうとらえただろう。
あれ以来、全く姿を現さないところから、意外と精神はナイーブでぽっきり折れてしまったのかもしれない。
「それはそれは…可哀想に」
コルトピはぼそりと呟く。
シャルナークに翻弄されてしまった兵士に対して…ミリ単位の同情を込めて。
ああ、それから…と、コルトピは所持していた鞄からある物を取り出す。
「はい、これ代わりの携帯持ってきたよ」
「サンキュー」
武器となる携帯を没収されている事を見越して、コルトピはシャルナークが使っているもう一つの携帯を事前にクロロから渡されていた。シャルナークは御礼を言うと、早速携帯の画面を開く。
「もしもし?」
『シャル、待たせたな』
電話をかけるとすぐに通じた。
…クロロも変わりないようで安心した。
「心配かけてごめん。そっちの方はどう?」
『ニ歩進んで一歩下がった…ぼちぼちだな』
「順調そうだね…そうだ、団長。伝えておきたい事があるんだ」
シャルナークは、現在の自分の状況や集めた情報を報告していく。
「起きる気配なし…よく効く薬だ」
電話中のシャルナークの後方で、コルトピは爆睡中の牢番の頬を人差し指でツンツンする。
こっそりと料理に仕込んでおいた眠り薬は効果覿面だった。
コルトピは満足そうに頷きながら、城の一階に繋がる階段に目を向ける。
「あっちも上手くやっているといいけれど…」
【真夜中の招かれざる客】
「こんなもんかな」
作業に没頭して一時間半。
今後の予定を含めて、【幻影旅団】への対策方法をまとめる事ができた。
あとは、実行するのみ…とリーシェはん~と背伸びする。
「カナっちは…調理中かな?」
リクエストのサンドイッチフルコースが完成するのは、まだまだ時間がかかると思われる。
その間に、小腹を満たすものを食べようか…と思ったその時だった。
コンコンッ
扉をノックする音が聞こえた。
どうぞ、と入室を促すと…一人の侍女が入ってきた。
「失礼いたします。カナン様からの命でお夜食を持って参りました」
此処に滞在するようになってから、たびたび見かける顔の女性だ。
真面目な表情で、温かいスープをベッドに近いテーブルに置く。
リーシェはジッと侍女の動作を見ながら、彼女に話しかけた。
「いつもすみませんね」
「いえ…仕事ですから」
「ところで…扉の所に待機しているもう一人の方は入って来ないんですか?」
さりげなく質問を投げかけるや、眼前の侍女の表情に動揺の色が現れる。
「まだ…入ったばかりの見習いです。
カナン様の親しい方の前に出すのは早いと思いまして、待機させております」
食器を離した指先が微かに震えている。
リーシェはふーんと目を細めると、ベッドに置いてあったメモ帳を取ってさらさらとペンを走らせる。
「これ、カナンさんに渡してもらえますか?」
「…ッ! はい、分かりました」
「やっぱり、ガイアス陛下に会うのは気が進まないから…話し合いは延期という事で」
そう告げてメモを渡すや、侍女は頭を下げて速やかに隅の方へ移動した。
「さーて、王宮のシェフ特製のスープの味を楽しもうか…」
リーシェはスプーンを持って、スープを啜ろうと…………はせずに、扉に目掛けて手裏剣の如く打った。
ドガッと音を立てて突き刺さるどころか、見事に貫通してしまった。
その衝撃場面を見ていた侍女は顔を蒼白にさせて、「ひぃ…!」と悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。
「そこで待機している侍女さーん、折角だからこれ味見してくれますか~?
美味い食事は、人数が多いと喜びを分かち合えますからv」
声を大にして呼びかけるや、扉が開いて姿を見せた侍女がシュッとある物を飛ばしてきた。
リーシェはパシッとそれを片手で受け止めて確認すると…先程のスプーンであった。
フッと口角を上げると、改めて視線を侍女へ向ける。
緑色のヘアバンドで後ろにまとめた鮮やかな桃色の長い髪、異性が視線をちらつかせるレベルで整っている顔立ち。棘のある近寄りがたい雰囲気の美女だが、親しい人物には心を砕く優しさも持ち合わせている事を…リーシェはよく知っている。
「ごきげんよう、その姿似合っているよ…マチ」
「随分なご挨拶だね」
侍女に扮して忍び込んできた招かれざる客に、リーシェは懐かしい気持ちになる。
幻影旅団の一員で、幼馴染であるマチとの…物騒な再会であった。
【つづく】
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