第23話【目をつけた理由】
「『差別や偏見が生まれるのはその人それぞれの固定概念も関わってる』ってタカさん…私の育ての親が言ってた。大抵のヒトはウワサとか世間体があってそれに流されて、無意識に自分とは違うヒトをこわがって認めたくなくて…同じ価値観のヒトを探してしまう。エスタロッサの言う事は合ってると思う」
けれど…とアンはエスタロッサを真っ直ぐ見据えて言葉を継ぐ。
「私は、そんなことで物事を判断する気はない。私は自分の目で…心で…いいか悪いかを決める。
同じこともう一回言うと、エスタロッサが人外だからって理由で差別する気は毛頭ないよ」
ハッキリ言いたい事を主張すると、アンは「あ、もう起きる時間だ」と言って立ち上がり、その場から姿を消した。
アンの言葉が、エスタロッサの脳裏に反芻する。
『物事の判断基準は、俺自身の目と心で決める。
他人に流されるようじゃ、良し悪しなんて判別できないだろう…?』
今は無き知己がそう言い放った台詞が、アンのソレと重なった。
(…‟アイツ”も同じ事を言ってたな)
時折、アンの眼差しやダイアナのさりげない仕草など…
あの姉妹の行動は、知己の愛した人物とも似通っている。
これは偶然か?
単なる他人の空似なのか…?
(もしかしたら…)
エスタロッサが通い続けるもう一つの理由。
それは、異世界の大戦で理不尽な死に方をした『友』と一人の女性の行方が関わっている。
二人のその後の手掛かりが、あの姉妹にあるのでは…というありえないような一つの仮説から。
【目をつけた理由】
「うっし!」
「やったぁ!」
リーシェとコゼットはハイタッチする。
二人との間を隔てる川の向かい側にいるエスタロッサ。
川は浅く、彼なら足が濡れるのを気にせずとも難なく渡れるはずだ…
川岸に仕込まれた『術式』が発動しなければ、が条件だが。
「魔を司る種族が苦手とする結界術の一種…
初めて使ったけど、こうも上手くいくとは思わなかった」
そう言いつつも、初めてエスタロッサの鼻を明かした事で、にやけ顔がとまらないリーシェ。
「…この術式、どこで覚えた?」
「企業ヒミツ」
珍しく眉を潜めるエスタロッサ。
しかし、そんな事等お構いなしにリーシェは教えてやんないよーと舌を出す。
「今日は記念すべき初・勝利の日!
……思う存分、こころおきなく寝転がれる」
「なら、あそこの花畑へいきましょう。
今日は不審者さんの目を気にする事無く楽しめるもの♪」
リーシェとコゼットは、仲良く手を繋いで花畑へと歩いていく。
ルンルン気分の姉妹の背中を見つめつつも、エスタロッサの視線は真下へと移る。
地面に深く刻まれている結界術の文字の羅列。
(これをあの二人がつくりあげただと…?)
同系のタイプを、エスタロッサは聖戦の際に何度か見かけた事はある。
だが、魔導書の知識をかじりとった程度の初心者ではできない…
本来なら高位の魔導士が数人集う事で完成させられる高度な術だ。
どこで?
どういう経路で?
誰から教わったのか?
その疑問が渦巻く中、エスタロッサが最大の関心を抱いたのは…
短期間で、魔神族でも容易に壊せない結界を生み出したあの姉妹の『才能』。
あの術を完成されるために、二人は並々ならぬ努力をしたのだろう。
また、その努力が功を奏した背景にはリーシェとコゼットの内に備わったインスピレーションが働いたからだ。
本人らがそれを自覚しているのかは不明だが…
その才能を磨き上げれば、その筋では優秀な職へつけるに違いない。
既視感を感じずにはいられない。
『友』と女性が拳と拳を合わせて軽く小突いて、新しい術の開発などを話題の種に談笑しあう記憶と、手を取り合う少女達の姿がダブって見えた。
(もしそうなら、アンとダイアナは…)
エスタロッサは胸に微かな高揚感を覚えた。
同時に…淡い期待も芽生えていった。
【つづく】
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