第23話【目をつけた理由】
リーシェとコゼットは作戦会議していた。
「…これが?」
「そう、エスタロッサ対策のやつ」
あれから、リーシェは【地下室】の文献を調べまくり、魔神族への対抗策を編み出した。
その事案をいくつか説明していると、コゼットが口を開く。
「どれから行うの?」
「まずは…」
それから三日後、エスタロッサは夢の領域へ姿を現した。
(……いない、か)
辺りを見回しながら、この領域の主二人の気配を探る。
エスタロッサにとって、それは日課となっていた。
*** ***** ***
夢の領域とは、その持ち主の心が反映される。
現実世界での枷が外される事で、深層で眠る願望や個人的欲求、感情が無意識に仮想的な一つの拠り所を生み出すのだ。千差万別はあれど、領域を形成できる主は少なからず力を持つ者もいる。
エスタロッサの仲間の一人…結論を言って、肝心な事を省く癖がある女性の魔神族がいる。
二、三十年前に彼女はある人物の夢の領域に彷徨いこんだ。
穏やかで争い事が苦手そうな人間の少女だった。
しかし、そんな少女の夢の領域に忍び込むや、彼女は驚愕した。
現実世界の少女はどこにでもいそうな非力な人間そのもの…だが、夢の空間内は普段では想像しがたいほどの魔力が漂っていたのだ。
『ケツから言って…感無量』
『ふんわりと甘い花の蜜の香り。瞼を下垂させ、瞑目させるほどのとろける舌触り。百年に一度味わえるか否かの旨味のある魔力にありつけられて、感無量との事だ』
彼女が言いたい事を通訳するのは、仲間である男性の魔神族。
どうやら、その少女が秘めた魔力がかなり美味だったらしい。
彼女は至福の表情でケプッとゲップし、お腹を擦っていた。
かくいう男性の方も、なかなか帰らない仲間を心配して迎えに行った際に、その魔力を少々味わったのか、ふぅと満足げな吐息を出す。
領域の主である少女に見つからずに、たんまりと美味い魔力を味わえるとは…なんとも器用なものだ。
あの聖戦で封印されて以降、エスタロッサを含めた魔神族は魔力が枯渇していた。
魔力がなくとも戦えるが…いつ何時、封印が解放されて外界へでていけるか分からない。
だからこそ、夢見の能力をフル稼働させて、少しでも魔力のある者がいれば、力を採取しているのだ。
しかし、力があるといえども、必ずその味が彼等の舌に合うかといえばそうでもない。
時にはアクが強すぎたり、極端な味わいだったり…率直にいえば、まずいものもある。
味だけならまだしも、中には魔神族にとっては害となる女神族と同系の力の所持者の領域に出くわす事もある。
一度、それに遭遇した腕を何本かもつ巨体の仲間が重傷を負ってしまった。
聞けば、その領域の主は異世界の人間の男性で、強靭な精神の持ち主な上、祓魔師(エクソシスト)だった。
魔を司る種族…悪魔を今まで幾度となく狩ってきた強者に運悪く巡り合ってしまい、仲間は痛み分けという形で撤退せざる負えなかった。
『今後は、夢の領域の主にこちら側から不本意に近づかない方がいい』
その状況を危惧した弟…ゼルドリスがそう提案した。
確かに、対応策としては上出来だろう。
しかし、エスタロッサは内心はあまり同調できなかった。
領域内にある力をより多く効率よく入手するためには、そこの主と接触した方がいいからだ。
また、夢の領域を作り出せるといっても、その主自身がそれを現実世界で自覚している例は極めて少ない。
仮にバッタリ鉢合わせたとしても、よほどの能力者でなければ、魔神族にとっては脅威ではないのだから。
エスタロッサが“その領域”を見つけたのはたまたまだった。
ちょうど領域の入口へ差し掛かった際に、匂いがした。
懐かしくて、芳しく…見ているだけで心が華やいでいく。
―――この領域は期待できる。
迷う事無く、エスタロッサは侵入した。
領域内はとても穏やかな空間だった。
地面一帯は草と色とりどりの花々が咲き誇り、暖かな春の陽だまりに包まれている。
漂っている魔力の質も、そこらの多少力があっても味は凡庸なものとは訳が違う。
例えるなら、黒系果実の甘みと柑橘系の果実の口当たりの良い酸味が綺麗に交じり合った味わい。
未熟だが、とても上質な魔力が漂っている。
(いいな…久々のアタリだ)
このところ、夢路で見つかる領域はエスタロッサにとって好みとは程遠いものばかりだった。
特に、前々回に忍び込んだ領域の主は特殊能力はあっても、如何せん味がまずかった。
対象者の情報は、領域内に一定期間留まっていると、ある程度の事は自然と頭の中へ入ってくる。
その領域の主は、性格面でかなり問題があり、それで酷く濁った水を飲んだような不快感が出たのだと後から判明した。
その事を思い出すと、やたらと今いる領域の主がどんな人物なのか興味が湧いてくる。
(なら…顔を見るのが鉄則だろう)
彼はすぐに行動に出た。
気配を探り、その場所へと足を進めていった。
ココの主が見つかるまでにそんなに時間はかからなかった。
遠目に見える栗色と黒みがかった藍色の髪の、年齢が十に満たない子ども達。
「…二人か」
自らの声に反応して、子ども…少女達は振り返る。
顔を見るや、エスタロッサの目の色が変わった。
(―――ッ!! 『ルエ』っ!?)
少女二人はあまりにも似ていた。
知己であった同胞が愛し、その身を投げ打ってでも救おうとした一人の女性に…。
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