第22話【長期戦の構え】


「うぼさん…ありがとう!」

「お、参考になったか?」

「うん…決めた」


リーシェの瞳から迷いはなくなった。

ウボォーギンはそれを察し、満足げにニヤリと笑う。


「今日のカレー、うぼさんの特別に大盛りにするよ。おかわりも…」

「サンキュー! 肉も多めにな!」


リーシェはそう言いながら瓦礫の山から下りると、駆け足で家へ向かう。

この家の主…タカさんはいない。

急な依頼で三カ月前から、ヨークシンシティへ出張している。

リーシェは、地下にある【秘密部屋】へ足を運ぶ。


「Aの棚…違う。Bの棚…これじゃない。………Fの棚…あった!」


秘密部屋に収納されている書物は、一般向けでないものが収められている。

大まかに言えば…世界の理とその成り立ちや歴史、戦闘、魔術、科学技術など、この世界にはないありとあらゆる分野。この世界の住民には、目を触れさせてはならない禁書にあたるものばかりだ。

リーシェの視界にFの棚にあるジャンル名が映る。


―――【種族】



(私はエスタロッサの事を何も知らない。魔神族やその特徴についても…)


エスタロッサが口にした数少ない情報を頼りに、調べ上げるしかない。

よくよく考えれば、まだ時間はある。

エスタロッサは、成長した自分達の魔力を求めているのだ。

魔神族の成人年齢は不明だが、大凡10代半ば~20歳の年齢層あたりで、あの男は動くと睨んだ。


(時間は限られてる…その間に…)


タイムリミットは最低で6年。

リーシェは決意した。

…その期限内に倒すのは困難でも、あの男を領域から追い払えるだけの力を身に着ける。

…自分と姉を守れるだけの力を。

本棚から書籍を一冊取ってバッと広げる。


(エスタロッサ……思い通りにさせてなるもんかッ…)


リーシェは瞳に強い意志を宿し、分厚い頁を捲り始めた。





【長期戦の構え】





「エスタロッサ」


夢路から戻ってきたエスタロッサに、黒いベールのようなものを羽織った女性が不思議そうに名を呼ぶ。


「それなに?」


女性は黒いベールを手足のように動かし、エスタロッサが持つ複数の小袋を指す。

ああ、これ…とエスタロッサは両手いっぱいに抱えている小袋に視線を落とす。


「貰い物」

「『貰い物』だと…エスタロッサ、まさか夢の領域の主と接触しているのか?」


黒い髪の少年が、彼の言葉に大いに眉を潜める。


「他者の領域で力を採取する際は『迂闊に姿を見せるな』と言ってるだろ」


少年は苛立ちを込めて小言を言う。

だが、エスタロッサはどこ吹く風と聞き流し、闇の床へバラバラと小袋を落とす。


「中身は…んん? なんじゃこれは…」

「あ、香辛料っすよ、これ…へっくしゅッ」


長身で鎧を纏った者が袋を広げると、塩コショウが入っていた。

同じく中身を確認していた蛸足の子どもは、その細かい粉を鼻に吸い込んでしまったため、くしゃみがでてしまう。


「おい、兄者…!」

「ゼルドリス」


詰め寄る少年の名をエスタロッサは口にする。


「安心しろ。目を付けた領域の主達は『特別』だ」

「あら、お気に入りなのね」


ベールを纏う女性がクスクスと笑って冷やかすと、エスタロッサは瞑目してくつりと笑う。



「ああ…“とっておき”のな」






【つづく】

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