第22話【長期戦の構え】


私は、あの日の出来事を姉さんにありのまま伝えた。

エスタロッサが魔神族で腹ペコ状態で、私と姉さんをいずれ美味しく食べる算段である事を…。


「…リーシェ」

「うん?」

「追い出しましょう!」


姉さんはキリッとした表情でそう主張した。

うん、その言葉を私も待っていた。

かくして、私達二人と魔神族との攻防戦が幕を開けた。



*** ***** ***



○月◇日


標的…エスタロッサは湖畔の周辺を散歩中だ。

姉さんが持ってきた塩10kgと胡椒10kgの大袋…私はそれらを混ぜ合わせて、小さめの袋につめていく。

背後からある程度の距離までジリジリと近づき、私は小袋を投げつけた。



―――シュッ、パシッ!



手作り塩コショウ爆弾をエスタロッサは振り返る事なく素手で受け止めた。

私は間髪入れずに次から次へと新たな小袋を投げつけていく。

しかし、かわされたり、手で払い落とされたり…明確に狙っているのに、エスタロッサはなんとも器用に回避していく。


「ダイアナ、つぎ」

「ダメ…もうないわ」


なにっ…と目を見開いた。

姉さんがゆっくりと首を左右に振って、カラとなった塩コショウの袋を見せてきた。

弾切れだと…唖然とする私が後方を振り返ると…

エスタロッサが生温かい眼差しで私と姉さんを見下ろしていた。


「もう終わりか?」

「てっしゅう!」


作戦は失敗。

エスタロッサに捕まる前に、私と姉さんは駆け足で逃走した。




○月×日


標的は、能天気に鼻歌交じりで花畑に横になって日光浴中。

魔の気配がプンプンしてるのに、鳥が脚や腕にとまってるなんて…なんてミスマッチな光景だ。

気配を消して、私は奴へホースを向けた。

近くに水場があるから、そこから蛇口をひねって水を放出する。

なんで蛇口があるかって…そりゃ、夢の中だから私と姉さんがつくりあげたのだ!

ホースの口を細めて、勢いよく水をエスタロッサへ飛ばした。


水攻撃はエスタロッサに命中した…よっしゃ!

小さくガッツポーズをとる私。


「アン…アン…!」


しかし、後ろにいる姉さんが震えた声で偽名を呼んできた。

どうしたの…と後ろを振り返った私は愚かだった。


「水遊びは、少し加減した方がいいぞ」


蛇口をひねって水を止めているエスタロッサがいたよ。

髪からポタポタ水滴が落ちてて、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべている。

やばい…今、数分後の未来予想図が頭をよぎった。

すっかり硬直している姉さんを引きずる形で、私は退散するしかなかった。




○月▼日


標的とはまだ遭遇していない。

今日はあいつの侵入日ではないのかもしれない。

姉さんといっしょに作戦会議をする事にした。


「次はコレなんてどうかな?」

「なにこれ…?」

「タカさんが家に潜む悪魔を倒すために定期的につかっている『バ○○ン』。煙を使って追い出す!」


これは、ご…頭文字Gを倒すためによく使われる殺虫剤。

姉さんのいる世界では、そういう類のものはないから一から説明していく。


「…という感じで、蓋をこすればOK」

「へぇー…分かったわ。じゃあ、少し休憩しましょう」


はい、クッキーどうぞ。

姉さんがニコッと笑顔で持ってきた網籠からお菓子を取り出した。

この頃から、姉さんの才能は開花していた。

王族の宮仕えの傍ら、義理母から花嫁修業の一環として料理を教え込まれているとの事だ。

義理母は、母さんの一回り年上の実姉さん。

温厚だけどちょっぴり厳しい事も言う、良い人らしい。


うん、おいしい。

素朴だけど、優しい甘さ。

スタンダードもいいけど、ナッツ入りのものもなかなかいける。


「腕あげたね」

「そう?」

「強いて言うなら、量を多くしてくれ」


スイーツタイムという癒しの一時は、第三者のチャチャ入れで脆く崩れ去った。

三枚目のクッキーを口に入れようとしたら、ギョッとした。

向かい側の姉さんとの間に標的がいつの間にか胡坐をかいて、クッキーを数枚とって咀嚼していたからだ。

さらに、視線を落とすとクッキーの枚数が残り三枚程度になっていた。


「…これだけだと足りねぇ」

「キャァアアア!!」

「かえせ、食いしん坊!」


指先に残った粉を舌先で舐めとりながら感想を言うエスタロッサ。

両手に頬を添えて叫び声をあげる姉さんをよそに、私はエスタロッサに網籠を投げつけて抗議した。




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