第21話【蠱惑の確言】


「何故…お前達の領域に侵入できたか、知りたいか?」


さっき、微弱な気で私を精神攻撃してきた癖に、エスタロッサは何を思ってか私の疑問に答えていった。

長ったらしい話になるから要約しよう。


エスタロッサはとある経緯で夢見の能力を得た。

彼以外の仲間も同じで、きたるべき時に備えて情報収集をしているとの事だ。

…故郷の世界で復活を成し遂げ、一族を封印した四種族へ報復するため。


そのために、彼等は夢見を駆使して異世界を渡り歩いている。

時に、他者の夢へ侵入し、知識や技術などを調べとる。

時に、特殊能力や魔力を秘める者へ憑依し、その力の源を摂取して身体を癒したり、栄養分を補う。

女神族の封印の影響で、エスタロッサをはじめとする魔神族の魔力は底をついているのだ。


エスタロッサ曰く…私と姉さんはまだ弱いけれど、非常に“良い匂いのする力”を秘めているとの事だ。

やっば…食材かッ!?

このままだと、いずれ私達はこの人に美味しく頂かれてしまう結末に…。


「………肉ついてないよ」

「お前の発言、慣れてきた」


細目で「食ってもまずいぞ」宣言したら、エスタロッサは可笑しそうに笑う。

あ、この人こんな表情もできるのか…。

すると、エスタロッサは真顔になって改めて私を見据える。



「そんなに食われたくないか?」

「……トーゼン」


「理由は?」

「生きたいから…目標があるから」


「その内容は?」

「この生涯をかけて…【ある男】に復讐するため」



そう、母さんを独り占めするために父さんを散々甚振った挙句殺した【あいつ】

母さんを誤って死なせてしまい、姉さんの当たり前の日常を奪った【銀髪のろくでなし】を見つけ出し、徹底的にぶちのめす。

だから、私はリスクはあるにせよ、生きなければならない。

ハッキリとした口調で言ったら、エスタロッサは目を見張り、眉を潜めた。


「それだけに人生を捧げるつもりか」

「ううん……別の目標もある」


あの【愚か者】を狩るために執着するだけの人生なんて大損だ。

復讐はあくまで人生設計の一部だ。

私は許される限り、自分のやりたい事、好きな事をして、この身が姉さんへと戻るまでの限りある命をまっとうしたい。でも、姉さんが望むならすぐにでも元に戻る気でいる。



「生きたいクセに、ダイアナが望めば消滅する気でいる…矛盾しているな」


エスタロッサは解せないという気持ちを露わにし、指摘した。



「もともと、ひとつの存在だったの…私とダイアナは。

他の種族と違って、私はいつか闇に解けてなくなってしまう。

それなら、他人に殺されるよりもダイアナにお願いされた方が断然いい」



元の身体に戻っても…私は姉さんの心の中で生き続けるだろう。

それはそれで私の望むひとつの理想だから満足できる。

多分、姉さんはそれを断固拒否してくるだろうけど…。



「だから、私はエスタロッサのごはんになりたくない、ダイアナも同じ。

お願いだからだれか別のおいしそうな匂いの人に移ってください」


「断る」



むむむ、純粋な子どものおねだり作戦は失敗に終わった。

…というか、即答で断るって…この魔神さん、どんだけ飢えているんだ。

このヤローと舌打ちを鳴らしたい衝動に駆られていると…



「俺はお前達の匂いが好きなんだ。

俺の見立てだと…将来、芳醇なコクのある、やみつきになりそうな魔力に育つはずだ。

蕾が開花し、いずれ実となって成熟するまで…じっくり待つ」



彼は愉悦を孕んだ表情で、私の髪を撫でると額に口付けした。



「喉から手が出るほど欲しくなるまで熟したら…その時、存分に味合わせてもらう」





【蠱惑の確言】





耳元で囁かれたその言葉は、ぞくりと背を震わせるのに十分なほど効果的だった。

思い返せば、私はあの時から俄かに予兆めいたものを感じ取っていたのだ。

この男とは、生涯切り離す事が難しい因縁がある事を…。





【つづく】

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