第21話【蠱惑の確言】
姉さんとは、夢路で会わない事も折々あった。
その日、湖畔を眺めながら日向ぼっこしていると、男の人の近づく気配がした。
「一人か?」
「……うん」
彼は私の隣に座った。
こんなチャンスは滅多にない。
前々から聞きたかった事を思い切って尋ねてみた。
「おじさん、人間じゃないの?」
「………」
最初、黙っているから答えたくないのかと思い…
「ごめん……別の…」
「―――『名前』」
質問を変えようとしたら、その人が言葉を重ねてきた。
「…ん?」
「名前…教えただろ」
あ、そうだ…初対面の頃に、この人は名前を言ってた。
こっちから話しかける事がないから、うっかり忘れていた。
「……エスタロッサ」
そう、彼は『エスタロッサ』
私がその名を口にすると、エスタロッサは口元を緩めて頭をくしゃっと撫でた。
「よくできました…あと、俺は人間じゃない」
答えてくれた。
やっぱり、彼は人間ではなかった。
「じゃあ、どんな種族なの?」
人間とは異なる別の種族。
私の住む流星街でも、極稀にそういう人が行き来したりしている。
彼がどういうのか、好奇心が疼く。
「―――『魔神族』」
「まじんぞく…?」
予想外の回答に私は目を見張った。
なんというか…ファンタジー。
しかし魔神族というからには、正統派の真反対だろう。
つまり、強大な悪役ポジション!
ぶれる事無く、ヒーローを翻弄し、誘惑し、ぶっ潰していこうとするヒール役。
悪役ってのは惹かれる要素満載なのだ…かくいう私もそういうのに憧れている。
「………昔、何かやらかした?」
「…いきなり、内面まで深く切り込む質問をするか」
そう言いながらも、エスタロッサはくくっと喉を鳴らして笑って語ってくれた。
エスタロッサがいた世界には、彼の種族を含めて大まかに五つの種族がいた。
ある事がきっかけで大規模な戦争が起こり、魔神族は他の四つの種族と対立。
その四種族の筆頭である女神族の手により、彼を含めた魔神族のほとんどは封印されてしまい、敗北したらしい。
「わぉ…」
まさに、どこぞの○輪物語的展開。
そうなると、エスタロッサはどんな役職についていたんだろう?
「……給料よかった?」
「…また、突拍子もない事訊いてくるなぁ」
エスタロッサは細目で「人間ってこういう話題に興味あるのか…」と言いたげだ。
ストレートに訊いた方が良かったか?
小首を傾げる私に、エスタロッサはまあいいか…と自分の役職や仲間の事を多少教えてくれた。
エスタロッサ…案の定、幹部クラスだった。
魔神王に仕える精鋭部隊の10人の内の1人との事だ。
「………ねえ、エスタロッサ」
「なんだ?」
「エスタロッサの御里事情はわかった。でも…」
別の疑問が沸々と湧いてきた。
なんで、エスタロッサは私と姉さんの領域に入ってきたのか?
その目的は?
この男の素性が明らかになった今、「おともだちになりたい」なんて単純に友好関係を結ぶなんて甘い思考ではないはずだ。
私の鋭い指摘に、エスタロッサがスッと目を細くした。
―――ドク…ッ
その刹那、私の視界全てが白黒に染まった。
エスタロッサの手が私の胸を貫通していた…いやそんな錯覚を起こさせた。
「……ぐっ…ん…ッ…」
それでも脳が信号を送り、私はその痛みに耐えかねて胸の抑えて蹲ってしまう。
(だいじょ…ぶ…まだ……キエテ…ない)
フーフー…と呼吸を整え、私は胸元を手で擦る。
痛みも和らいできて、ようやく私はエスタロッサを見上げれるようになった。
エスタロッサはほぉ…と感心したように顎を手で押し当てていた。
「やるな」
「……どーも」
私は、この人を甘く見ていた。
姉さんの判断は正しかった。
この人…いやこいつに容易く懐を曝け出す真似をしたらいけない。
油断したら食われてしまう…そう実感した。
・
