第20話【Breakdown of negotiations】
目の前にいる男性は、妹の幼馴染。
そして、妹や仲間の皆を困らせている盗賊団の首領。
コゼットは静かに、カウンターに座るその青年と目を合わせる。
「生前、妹がお世話になりました」
「いや、こちらこそ」
クロロは愛想よくニコニコと笑っている。
コゼットも営業スマイルを崩す事はないが…
『…油断ならない人』
内心は、警戒感を剥き出しにしている。
一連の事件の黒幕ながら、堂々と身内である自分の店へとやってくる大胆さ。
その上、熟練の剣士…イザヤが傍らで睨み付けていても、余裕で受け答えする精神力。
身体から彷彿させるオーラは、中級辺りの戦士とは遥かに一線を越える程のレベルだ。
「リーシェと貴女の関係は分かっている。…それに至った経緯と過去も」
「そうですか…」
一盗賊団のトップが、独自のルートだけでノーバディや世界の理を調べ上げたのか…。
それだけでも脅威だが、自分と妹の実の関係性さえも知っていると明かされ、若干眉を潜ませてしまう。
「俺は、幼い頃から貴女の事をリーシェから聞いていた。
だから、リーシェにとって貴女や母親がその身に代えても守りたい大事な存在なんだと理解している」
「……」
「リーシェが『ある男』への復讐を人生をかけてまで行おうとしていた事も…
自らの生への執着を持てなかった事も…ずっと見てきた」
クロロ=ルシルフルという男は、リーシェの生前の歩みを独自で見守っていたようだ。
流星街という、一般との常識が180度異なる環境で一緒に育ち、クロロは盗賊として、リーシェは医師として別々の道を辿っていたが、彼はずっとリーシェの事を気にかけていた。
いつか、リーシェが身を滅ぼしてしまうのではないか…?
仮に、目的を達成した後、リーシェは生きる意味を失い、自害するのではないか…?
クロロはそんなリーシェの姿を見たくなかった。
彼女の力になりたかった。
彼女の代わりに、家族を崩壊させた男を殺してやりたかった。
彼女がこの世に執着するための糧になりたかった。
「俺はそんなリーシェを支えてやりたかった。
……リーシェの命が消え失せたあの時、なんでもっと早く彼女の傍にいてやらなかったのか
…後悔が募るばかりだった」
ギュッと拳を握り、悲愴な表情を浮かべるクロロ。
演技ではない…その気持ちは本物であると、コゼットは感じ取った。
「リーシェは、別の種族に生まれ変わったが…生前と何も変わっていない。
どんな存在だろうと構わない。二度も同じ過ちを踏みたくない…そう思った」
これは神の気紛れだ。
同時に、クロロにとって絶好のチャンスでもあった。
大切なモノを確実に得るために…躊躇する気はさらさらない。
「なら、何故エクレシア達を狩ろうとする?」
真剣な顔で語るクロロに対し、イザヤが疑問をぶつけた。
「お前にとって、リーシェが大事な人なんだろ。何故、彼女の仲間を…それだけじゃない、周辺の無関係な人間まで…命を奪おうとするんだ…?」
「……答える必要があるのか?」
外野は黙っていろ。
クロロは拒絶を孕んだ鋭利な眼差しで、回答を拒む。
「貴方は『私』を含めた他のエクレシア達が邪魔なのね」
「……!?」
「コゼット…!」
彼の思惑を…コゼットが鋭く指摘した。
彼女からの思わぬ発言に、クロロの表情に微かだが…動揺が生まれた。
「リーシェが幻影旅団に入らないときっぱり断った理由が、私や母、エクレシアのみんながいるから…家族や仲間を選んだから。貴方はそれが気に入らなかった。だから、『障害』となるものを取り除こうとした…違いますか?」
実行犯の目の前で、堂々と自らの推理を言った。
コゼットの顔には怯えや嫌悪の色はない…ただ真っ直ぐに彼を見据えている。
「ああ、ほとんど正解だ」
人受けしそうな笑みを消したクロロ。
ガラリと周囲の空気が一変する。
静寂だが、心を落ち着かせられる憩いの空間が緊張と威圧に満ちた重苦しい場へとなった。
「長年求め続けて…ようやく再会できたのに…リーシェはまた『居場所』をつくっていた。絆された仲間が…そして心を許す男までいる」
クロロの瞳に激情の火がちらつく。
渇望してやまないリーシェの目は、自分を映し出さない。
彼女の目は…自分の知らない赤の他人へ注がれている。
彼女の身も心も、あの銀髪の悪魔狩りの男が独占している。
―――受け入れられなかった。
彼女の親愛の…愛情の対象が、現在の居場所を形成している者達になっている現実を。
―――許せなかった。
その対象となっているエクレシアも、男も…何もかもが…!
「だから、俺は奪う―――リーシェ自身も、彼女の居場所も…
蜘蛛がすべて奪い取る。リーシェが本来いるべき場所へ誘うんだ。
…例え、あいつが拒もうと…他の誰かが阻もうと…邪魔する者は容赦なく殺る」
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