第20話【Breakdown of negotiations】


幼い頃、私は世にも奇妙な体験をした。

夢見で姉さんに会えるようになってから一年経過した頃だったか…。

あ、夢の中で家族と会話している時点で奇妙すぎるってツッコみはスルーしてください。

話を戻すとその日、姉さんといつものように談話していた。



『…二人か』



突然、横から誰かの声が割り込んできた。

私と姉さんはパッと同時に振り返る。

視線の先にいたのは、男性だった。

髪は太陽の元なら煌びやかに輝くだろう銀色。

瞳の色は漆黒で、どこか深淵の闇を彷彿させていて…右の額に特徴的な紋様があった。


年齢は20代後半~30代前半。

身長はかなり高いし、わぉ…よく見りゃ、なかなかの男前だ。

足を鎧で覆っていて、着ている服装が焦げ茶色の生地で軍服っぽい。

どこぞの国のお偉いさんだろうか…?

私がぼぉーと頭の中で思考を巡らせている傍ら、姉さんの顔は強張っていた。


見ず知らずの男が、妹との楽しい一時を過ごしている領域に入り込んだんだ。

そりゃ、警戒しない方がおかしい。


『名前…教えてくれるか?』


男の人はわざわざ屈んで、私達と同じ目線で問いかけてきた。

言葉をかけられた私の瞳と、その人の瞳がかち合う。

よく解らないけれど…懐かしい気持ちが込み上げてきた。


いや、目の前のいい年齢のこの人とは初対面でしたよ。

でも、この人の纏うオーラ…すっごく桁外れの量と強さが滲み出ている。

私は、姉さん同様に眉を寄せてしまう。

うん…この男の人には名前を言わない方がいい。

直感から言わせてもらうと、こいつからはやばい匂いがプンプンする。


『どうした?』


なかなか、名前を口にしない私達の様子が気になっているようだ。

このまま沈黙を貫くべきか…?

いや、態度によっては、相手側が何か仕掛けてくるかもしれない。



『人の名前を聞く前に、まず自分から名乗るのが礼儀ではないのですか?』



どうすりゃいいんだ…と判断をしかねていると、姉さんがキリッとした表情でそう言い返した。

姉さん…一年前からお城で宮仕えをし始めたと言ってたな。

だから、あんな礼儀正しい対応ができるのか。

私も見習わないとな…と呑気に考えていると、男性はふーんと興味深そうに目を細め、口元に弧を描いた。



『名前は―――――』



男の人は姉さんのご要望通りに名乗った。

名前を言うくらい痛くも痒くもなんでもない…その平然とした態度に、姉さんは唇を震わせる。



“こっちは望み通りにした、次はお前らの番だぞ?”



笑っている…だが、瞳の中は『逃げるのは許さない』というメッセージを暗に含んだ攻撃的な魔物の気配が漂っている。姉さんは服の裾をギュッと握りながら、目の前の脅威に屈しない様に頑張っている。

けれど、9歳児が大の大人相手にどれだけふんばれるか…限界がある。


『アン! こっちはダイアナ』


だから、私は挙手して名乗った…偽名で。

姉さんにコレ以上酷な役目をやらせるなんてできなかった。

今まで無口だった私が突如声を上げた事に、男の人は瞬きをしたが、すぐに私の方へ視線を変えた。

男の人が手を伸ばしてきた。


『アン…』


大きな指先で私の頬を撫でながら、仮の名を復唱する。

初対面の人に顔を触れられてるのに、嫌悪感がでてこないのがまた不思議でたまらない。


『…ダイアナ』


もう片方の手で姉さんの髪を撫でる。

私とは対照的に、姉さんは眼を瞑って固まっている。


『ダイアナ、いじめないで』


どうも、この人は私と姉さんの反応を楽しんでいる節があった。

子ども虐めなんて悪趣味すぎるぞ…だから批判させてもらった。

その発言をした直後、男の人は私の顎をクイッと指先であげて…



『その目、似てるな。あいつに…』



意味深げな言葉を言って、顔を近づけてきた。

額にキスされちゃったよ、うわぁー…。

これが初キス体験というものか…デコだけど。

脳内では喋りまくって、現実ではぼぉーとしてた私だが、気づくと姉さんが間に入り込んで男をキッと睨んでいた。



『この子にヘンな事しないで!』


姉さんが感情を荒げる姿なんて…初めて見た。

例えるなら、生まれたばかりの子猫を守る親猫みたいな感じだ。

姉さんの背中を見つつ、私は男の人の動向を注視していた。

もしも、姉さんが暴力を振るわれたら、すぐさま氷魔法をぶつけてやるつもりだった。

だが…男の人は逆に姉さんの心情を汲み取ったのか、姉さんの目尻から浮き上がっていた涙を人差し指ですくいとった。


『泣くな』

『誰のせいよ!』


うん、十中八九あんたの所為だよ。

それから、結局泣き出した姉さんを慰めようとしたのか…私と同じく額にキスしたら、姉さんが彼の頬を叩いた。子どもの力なんであんまり効果はないが、男の人の方は「あれ?」と叩かれた頬を手で擦りながら頭に疑問符を浮かべてた。

姉さんを泣き止ませるのに、私と男の人…二人で悩みまくりましたよ。


そうこうしている間に、眠りから覚めるし…。

しかも、その奇妙な体験はそれで完結せずに、男の人と何回か遭遇する事になってしまう。

どうして、こうも風変わりな部類と縁ができやすいのだろうか…。




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