第19話【喜べない再会】


その日、私は四年に一度、大規模なオークションが開催されるヨークシンシティを訪れていた。

マフィアなどの裏組織が取り仕切るこの町は、良い資金稼ぎの場でもある。

此処で稼いでおけば、生活費と武器購入費も数十年は安定だ。

顧客の大富豪の診療も大体終えたし、後の日程は特に考えていなかった。


だから、この祭りを満喫しようと、久しぶりに素顔を露わにしてまったり過ごす事にした。

衣服もいつもの機能性を重視したものではなく、少しお洒落な花柄のワンピースと白いトッパーカーディガン。

薄く化粧をして、町をぶらぶらと探索した。

暇そうな男性に何人か声を掛けられたが、適当な理由をつけて断ったりして、骨董品屋やアクセサリー店を廻った。


それにしても“時間”と言うのはあっという間に過ぎてしまう。

ふと、時計をみれば午後5時を指しており、空は暁色へ変化していた。


(早いな…ホテルに戻ろうかー)


ふぁーと生欠伸をして、踵を返してホテルへ直行しようとしたその時、通りすがりの女性二人組の一人と危うくぶつかりそうになった。


「…っと、すみません」

「いや、こっちもごめ……ッ!」


相手側が息を飲みこむのが、聞こえる。

その女性の顔を見なければよかった、と後々後悔するとは知らず、私は『彼女』の顔を見てしまった。


「……あなたは(…あれっ…マチ?)」

「…うそだ……」

「リーシェ…なの?」


もう一人の女性も…随分と大人っぽく胸元を強調した大胆なスーツを着ているけれど、間違いない。

―――パクさんだ。


そして、私を間近で見て、信じられないと驚愕の顔をしているのは、幼馴染のマチ。

随分と綺麗になったな、二人とも…と呑気に感じていたら、マチが私の腕を掴んだ。


「リーシェ……生きてたの…?」


マチの発した言葉が、私の脳へ危険信号を送った。

“やばい…この二人は、私が一度、なくなった事に勘付いている”と。



「…すみません。人違いじゃないですか?」


咄嗟に他人の演技をした。

この5年の間に、私は人並みに作り笑顔ができるようになった。

彼女達に、私が『リーシェ』だと気付かれてはいけない。


「いや…違う。あんたは…」

「マチ、その位にしておきなさい。ごめんなさいね、私達の知人によく似てたから…」

「いえ、気にしていませんので。それでは…」


私は愛想笑いをして、その場を足早に立ち去った。


『パク、間違いない…さっきの子はリーシェだ!』

『そんな訳ないでしょう。あの子は死んだはずよ』


大分遠くまで離れても、エクレシア特有の凡人離れな聴覚によって、マチとパクさんの会話が筒抜け状態だった。彼女達の会話から推測すると、マチは何かしらの理由で、私が死んだ事を知っていたのだ。

パクさんの口調から、他の団員達もその事実を周知済み。


(まずい…)


私とした事が…とんでもない失敗をしてしまった。

しかし、勘の鋭いマチはともかく、パクさんは他人の空似だと感じているようだ。

このまま、此処にいたら…あいつらと遭遇するだろうし、面倒な事になるのは目に見えている。


(今日か明日…この世界から離れよう)


昔馴染みのあいつらと再会できないのは少し残念な気持ちだったが、仕方ないと割り切っていた。





【喜べない再会】





この時点で、私は予想していなかった。


マチとパクさんが、この事を他の団員に伝えていた事を。

マチが、私が『リーシェ』であるという可能性を捨て切れず、むしろそうだと直感が囁いている、と言った事を。団員の何人かは、その報告を聞くや明るい表情になっていた事を。

何より、クロロが一番歓喜に満ちていた事を。


この一件が、後の“繋がり”をつくるきっかけとなったのだ。

蜘蛛…もとい、面倒くさい男、クロロ=ルシルフルとの『腐れ縁』を。





【つづく】

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