第19話【喜べない再会】


エクレシアになってから5年目、私は生まれ故郷である『あの世界』へ戻った。

理由は『あの世界』で、私がどちらの立場になっているか確認するため。


【クロト=メグスラシル】にいる時、フリーマーケットで掘り出し物を探していて…たまたま、ハンターライセンスを見つけてしまった。

しかも、そのライセンスは私の物だった。


何故、この狭間の世界に、私の所持品が流れ着いたのだろうか?


その謎を解明するよりも、私はあの【世界】の事が気になった。

もう、私の中で、あの頃の日々は遠い記憶になりつつあったのに…。

ライセンスを手に取った瞬間、記憶の引き出しにしまいこんでいた思い出がぽろぽろと溢れ出してきた。


―――生まれ故郷が懐かしくなっていた。


創造主に話をつけて、私は生まれた世界へ再び降り立った。

真っ先に赴いたのは、ハンター協会。

さて、私は行方不明者か死人扱いか…?


「ど、ドクター…ドクター・クローチェですか!」


初めに再会したのは、マーメンさん。

ネテロ会長の秘書で、お豆のような顔をしているマスコット的な人だ。

私の顔を見るや、飛び上がって来た道引き返して、会長を呼びに行ったよ。

…というか、ネテロのじいさん、まだ現役続けていたのか。



「久しいのう、リーシェ」


会長の部屋へ通されるや、会長が笑いながら出迎えてくれた。

会長は、相変わらずマイペースだ。

彼曰く、この世界での私の立場は、行方不明者扱いになっていたようだ。


宿泊していたホテルに、大量の血痕だけ残して遺体も跡形もなく、姿を消していた。

ノーバディには「死」という概念はない。

最期を迎える時は肉体は跡形もなく、「消滅」してしまうのだ。



「リーシェ、お前さん、生きとるのか? 

それとも…一度なくなってしもうたのか?

真相は…どっちじゃ?」



会長は、私がノーバディである事を知っている数少ない人だ。

数多のハンターを束ねるトップの長年の勘なのか、私が既にこの世に存在しない者だと推察していた。


結論から言うと、正直にありのままの事実を話した。

勿論、天界や他の機密に関わるものは触れないでおいた。

会長は、意外と口が固いし、彼の側近達も他者の秘密を公に広める様な愚行をする輩ではないからだ。

事実を聴くや、会長ある問いかけをしてきた。


「リーシェ、お前さん…今、幸せか?」


その面持ちは、まるでどこかに嫁いだ孫娘を憂う老人そのものだった。



「―――幸せだよ。すごくね」



仮面の裏側で、私は満面の笑みを浮かべてそう答えた。



◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇



それから、私は創造主の許可を得て、この世界で再び活動を再開した。

生前も、お気に入りの兎の仮面をつけて素顔を晒していなかった。

そのおかげで、大半の人間は私がつい最近まで荒稼ぎした金で隠居暮らししていたのだと思っていたようだ。

私にとってはラッキーな事だ。


手始めに、大病院から非常勤の仕事を取っていった。

第一線から離れていて、腕が鈍っていると決め込んでいた権威が高い連中が仰天した顔が今でも忘れられない。

私はエクレシアになって以降も、外科手術の腕は磨き続けていたのだよ。

一つの世界では習得できない、他の世界での治療術も会得済みだ。


その甲斐あって「専任医師となってくれ」と申し出る顧客の数も増えていった。

但し、以前のように公に姿を見せるのはある程度控えた。

私が一度死んだ身だと知る人物が少なくともいるかもしれない。


私が唯一、この世の存在ではないと知るのは、ネテロ会長と秘書のマーメン、親しい友人のジンだけ。

あ~…でも、十二支んのパリストンあたりは気付いているかもな…まあ、あんまり会わないし関係ないけれど。

数年以上経過しても、私の存在に疑問視する声はあがらなかった。

クロト=メグスラシルとこちらを含め、数多の世界を行き来して、私は第二の人生を謳歌した。

そう…仕事も私事も順調だった。


―――あの時までは…。



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