第17話【兎の異変、姉の過去】


「それが…エクレシアになったきっかけでした。

それから、ヴァルハラの創造主様のもとで修業を行い、正式にエクレシアとなりました。

母と再会したのもその時です」



エクレシアになった経緯を聞き、イザヤはそうだったのか…と呟く。



「無粋な事訊くが、あんたは…エクレシアになって後悔していないのか?」

「えっ…」


「今回の一件…何が原因か分からないが、あの盗賊団はあんた達の命を狙っている。

あいつらに限らず、エクレシアの力を欲する輩は少なくない。

世界の為に働いているのに、逆にその力を恐れて、あんたらに協力しない奴らだっている」



“ 世界を守る存在になれ ”


そう言われて、実際に好んでその職種につく人達はどのくらいいるだろうか…?

子どもの頃からヒーローや戦うヒロインに憧れていた人、正義感が強い人、何かしらの違う自分になりたい願望のある人なら強く望むかもしれない。


しかし、コゼットの場合は違う。

エクレシアになれる条件があったから、なれと半ば強引に勧められたようなものだ。

カナンやダンのように、世界の平和と安寧を願って、自ら志願したエクレシアもいるが、他のエクレシアも同じか否かは不明だ。


例え、念願のヒーローやヒロインになれたとしても、それで順風満帆になれるのか、といえばそうとも限らない。

いつか否応にも直面するのだ―――思い描いていた理想無情な現実のギャップに。


誰かに称賛されても、誰かには激しい批判を浴びせられる。

多くの一般人を救えても、大事な人を失ってしまう事もある。

他者を助けて尽くしてきたのに、いざ自らが窮地に陥ったら、助けてくれるどころか見放される事だってあるのだから。


ある世界では、願いを一つだけ叶える代わりに、人が負の感情を溜めこんだ末に生れの果てとなった【魔女】と戦う運命を背負わされる

悪徳商法に近い酷いシステムがあった。

しかも、言葉巧みに少女達を惑わそうとするその黒幕が、本来は味方であるべき一見愛くるしいマスコットキャラなのだから、尚更性質が悪い。


イザヤは、エクレシアの微妙な立ち位置を知っている少数派だ。

エクレシアの全員と面識を持ち、彼等に仲間意識に近い「情」も芽生えた(兎仮面に対しては別の意味の感情が芽生えたが…)。

将来、自らがエクレシアになりたいかと言えばそうでもない。

でも、神の卵となった「彼等」が…どんな形にせよ、努力が報われてほしいと感じている。


だからこそ、随分前から思っていた疑問をぶつけた。

リエ以外のエクレシア達が「エクレシア」になった事をどう思っているのか…を。


「そうですね…最初はそんな大役、私に勤めらないって思っていました」


コゼットは、視線を上にあげて天井を眺める。


「人を助ける治癒術を会得して、同時に人を殺める術も身につけてしまった。修行の中で…魔物を相手に殺めてしまった時…震えが止まらなかった」


粛然とした様子で自分の手を見つめるコゼット。

当時、体感してしまった生きているモノを裂く感覚は今でも忘れられない。

でも…と、コゼットはそれらをふっ切る様に口元を緩める。



「でも、私には仲間がいました。夫や、母と妹、ダンさん、普賢さんが…

そして、今では加奈さんやアンジールさん、カナンさんがいる。

ドラちゃんやアーサーさん、たくさんの人達に出逢えた事で、辛い事を乗り越えられた」



そして…と、イザヤに視線を向けてこう言葉を継ぐ。


「こうして、イザヤさんとも知り合いになれた…良い意味でね」

「……!」

「私は、母のように多くの人に寛大になれませんし、だからといって、妹のように仕事と割り切って、人を断罪する事にも抵抗があります」


でも、一つだけ他の人には負けないところもあります。

何か分かりますか?

と、コゼットは問いかけてきた。


急な問いに、イザヤはふむ…と顎に指を添えて考える。


「料理の腕か?」

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいけど、ちょっとおしいですね」


茶目っ気な笑みを浮かべながら、コゼットはそっと…その答えを口にした。


「根気強さ、です」

「根気…」


「ええ。仕えていた王女を守って斬りつけられた事もありますし、暴れる大河に突きとおされたり、数え切れない程のモンスターと戦い抜いてきました。幾度となく、危険な目にあいましたけど…精神面は結構強くなったんですよ」


にこっと人当たりの良い笑いをして、そう説明してくれた。

だが、語る内容は一般人からすれば、何この人思いっきり崖っぷちしまくってるじゃん、と言わんばかりの壮絶人生だ。


(…なんというか…波瀾万丈すぎるだろ)


なんて、内の声を出すわけにはいかず、イザヤは「そうか…」と冷や汗を流しながらそう返事した。



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