第17話【兎の異変、姉の過去】
「コゼット……少しいいか?」
食器を盆へ戻しているコゼットに、イザヤは声をかけた。
「どうしました?」
「俺は万屋になって、リエと知り合ってから世界の壁を越えて異世界へいくようになった」
一度、ルフィの世界へ行った時は不可抗力だった。
それから、失伝魔法の一つ、移送方陣を教えられた事により、制約はあるにせよ世界をまたにかけて移動できるようになった。
二桁を超える程、足を踏み入れていないが、文明や常識が異なる地に、戸惑う事もある。
その中で、イザヤはある事に気付いた。
多くの世界に…知名度の多少の差はあるにしろ、【エクレシア】の存在が歴史上に刻まれている事に。
「俺の故郷で見た歴史書には、エクレシアが過去にいたような表現の記載はなかった」
けれども…歴史の裏側で、名もなき神の卵がいたのかもしれない。
「コゼットは…なんでエクレシアになったんだ?」
思いきって、質問してみた。
友であるリエがエクレシアになった理由は聞いていたが…他のエクレシア達は何故、そうなったのか。
個人的に訊いてみたかった。
「私…最初は、家政婦になる予定だったんです。元々、宮仕えをした経験もあったので…」
成程、彼女らしいと思った。
しかし、彼女の口調から、当初の予定を変える何かが起きた。
「でも、ある時…自分がエクレシアの血に目覚めていた事に気付いてしまった」
コゼットは、神妙な面持ちで当時の事を振り返る。
「クロト=メグスラシルは、異世界の難民を迎えるシステムがあるのはご存知ですよね?」
「ああ…ドラえもんから聞いた」
「今はあまりなくなったけど…昔はその難民に紛れて盗賊や凶悪犯も侵入してくる事がありました」
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
見る限り極悪な風貌のその男は凶器を片手に、就職支援センターに侵入した。
その時、現場にコゼットもいたのだ。
「その男性は余裕がない雰囲気だった…当然ね。
気付かない内に、自分の故郷とは全く違う世界にきてしまったもの」
男は、凶器…使い古したナイフを振りまわしながら、大声で叫ぶ。
その刃が、近くにいた女性に向けられそうになった瞬間、コゼットは咄嗟に横から犯人を突き飛ばした。
しかし…あまりにも体格の差がありすぎて、すぐに地面に押し倒されてしまう。
男が凶器を頭高く振り下ろそうとした。
ああ…これで終わりなのか。
窮地の状態で、思考が冷静に働く。
その瞬間、ドクッと胸の鼓動が高鳴った。
(……私は…ここで…終わってしまう…?)
ドクドク、と心臓を鷲掴みされるような、血液が逆流する感覚を覚える。
(いや…私は…また…死にたくない!)
身体の奥底から、絞り出すように…コゼットは声を張り上げた。
『…ぁあああああ!!!』
全身から眩い光が放出される。
その男は、膨大な力の奔流に吹き飛ばされてしまい、気絶していた。
警備兵に男が連行されるのを、座り込んだまま、半ばぼんやりして見つめていた。
『…大丈夫ですか?』
ふわっと背中に毛布がかけられる。
コゼットに気遣いの声をかけてきたのは、一人の男性。
顔色があまりすぐれず、時折咳き込む変わった服装の人だった。
『ここではあれですから…場所を変えましょうか』
その男性の名前は―――月光ハヤテ
後に、コゼットの剣の師匠となり…伴侶となる人物だった。
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