第17話【兎の異変、姉の過去】
「……師匠、リーシェ師匠!」
「…う…ん…」
薄らと目を開けると、愛弟子の姿が映る。
リーシェはふぁーと欠伸をしながら、後頭部を掻く。
「おはよー…」
薄目で朝の挨拶をするリーシェに、カナンはハァと溜息を洩らす。
「…おはようございます、と言うには少し遅いですよ」
「うーん…じゃあおそよー」
「大丈夫ですか? ここ数日、寝たままで心配したんですよ」
ダンテとの連絡から約三日間、リーシェは目を覚まさなかった。
今回で二回目だ。
あまりにも長く眠りにつく彼女に、侍女達は困惑と心配の声をあげた。
最初は、親しい人と対峙する事への悩みとストレスが影響したのか…と思っていた。
しかし、二度目のこの症状をみて、カナンはまさか…と眉を潜める。
「師匠、もしかして…」
「……いや、まだなんともいえない。もうちょい様子を見ないと、ね」
リーシェは大した事なさそうに言いながら、肩を手でもきゅもきゅと揉む。
「これからどうしますか?」
「そうだね…まずは、牢屋行こうか~」
「えっ、牢屋に…?」
何のために…とカナンが言いかける前に、リーシェは白衣を着てとっとと扉を開けて出て行った。
置いて行かれたカナンはハァ…と軽く息をついた。
「……リーシェ師匠、また変な事考えているんじゃないわよね」
脳内に芽生えたとんでもない可能性を消したかったが、超直感がそれを阻止してしまう。
もやもやと消えない不安と嫌な予感に苛まれながら、カナンは後を追った。
◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇
「ん…」
ぼんやりした視界に映る誰かの顔。
「イザヤさん、お目覚めですか?」
徐々に輪郭がハッキリしてくる。
自分が信頼している友と、よく似ている顔。
でも、彼女ではない。
髪と瞳の色が全く違う…彼女の血縁者だ。
「……俺、どれほど…寝ていた?」
「一日ぐっすり熟睡していましたよ」
その血縁者の女性…コゼットがクスッと笑いながら、近くの机に食事を乗せたお盆をおく。
「少し遅いですけど、食事は如何ですか?」
重たい瞼を擦りながら、その食事の方へ視線が向く。
ホカホカの白飯と赤身の強い紅鮭、豆腐と葱の味噌汁だ。
心なしか、腹の虫の音がタイミングを見計らった様に鳴り始めた。
「じゃあ…お言葉に甘えて」
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
箸を取ると、器用に紅鮭をほぐす。
一口食べると、今度は白飯を一口…咀嚼する。
「……うまい…」
鮭とご飯の組み合わせは最高だ。
イザヤは職業柄、腹もちの良いものを好む。
朝食は、いつも鮭と明太子のおにぎりだ。
別に洋食が嫌いなわけではないが、どちらかといえば、和食をよく食べる方だ。
(ウーロン茶が飲みたくなってきた…)
…と思ったが、既に温かい緑茶を差し出されたので、さすがに注文をつけるのは…と遠慮した。
「最後にデザートをどうぞ」
締めのデザートは、ゆずのシャーベットだ。
ゆずの果実をまるまるくりぬいて、その中にシャーベットをいれている。
スプーンですくって口へいれると、爽やかな風味とほんのりした甘さが舌を潤す。
「…ふぅ、ごちそうさま」
「お粗末さまでした」
お茶を啜り、一息つくイザヤ。
コゼットは満足そうに笑って謙遜の言葉を言った。
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