第16話【兎の“述懐”、悪魔狩人の“ヤマ”】
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「ねぇ、リーシェはまだ帰ってこないの?」
掃除をし終えて、ソファーにポフッと腰をおろしたパティが何気なく訊いてきた。
「多分、暫くは無理だろ」
「え~、なんで?」
「デカイ仕事ができたんだ、とさ」
そぅ…とパティは淋しそうに呟く。
「リーシェ…お医者さんの仕事をしてるのよね」
「ああ、(違法すれすれで)がっぽり儲けてるよ。あいつは…」
「すっごく勉強したのね、きっと…。
だってお医者さんになるのって、凄く大変だって、院長先生が言ってたもの」
苦労したんだわ…とまるで自分の事のように憂うパティ。
あながち間違っていない、と思った。
リーシェが、医者の道を進んだのは義理の親の影響だ、と聞いた。
最大の目的は、いけすかない色黒の探究者に復讐する事みたいだが、その確固たる目標ができる以前から、薬学や医学に興味を持っていたらしい。
タカフミ・スドウ―――リーシェを育てた男は、良くも悪くも彼女に多大な影響を与えた。
リーシェに人並みの常識を教え、膨大な知識を授けた。
彼女の出生を見抜き、彼女にとっての生きる目標を見つけ出させた。
自ら地に立って、歩いていけるように…。
それが、彼なりの親心であるのだと感じられた。
しかし、ダンテは面白くなかった。
今でも、その男が恋人の心に居座っている事が…。
多分、リーシェが彼に抱いているのが親子愛だというのは本当だろう。
それでも、嫉妬の念を抱いてしまう自分は心が狭いのだろうか…。
「ダンテ、どうしたの? 気難しい顔しちゃって…」
「…腹が減ったみたいだ。注文とるか…」
「また、ピザ!? リーシェがいないからって、偏った食事しちゃダメでしょう!」
「いいだろ、とって減るもんでもあるまいし…」
ちょっと聞いてるの! と説教する少女をよそに、ダンテはレトロな電話の受話器をとろうとした。
ジリリリ…ジリリリン
ダンテがとる前に、電話のベルが鳴りだした。
仕事の依頼かも、とはしゃぐパティを傍らに、ダンテは受話器をとった。
『ハロー、その様子だとお目覚めかい? 大家さん』
かけてきた人物に、ダンテは目を見開いた。
「…リーシェか」
「えっ、リーシェなの?」
小首を傾げるパティに、ダンテは静かにしててくれ、と口パクで言う。
いつものだらけた感じではなく、真面目な雰囲気のダンテに、何かを感じ取ったのか、パティは小さく頷く。
『そっちはどう? 何か変わった事なさそうですか?』
こっちに危険が及んでいないか、と聞くリーシェ。
幻影旅団の標的は「エクレシア」だが、彼等を捕まえるためにその周辺の人間を利用するかもしれない。
その可能性を見越した上で、ダンテに確認の電話してきたようだ。
「おかげさまで…ここんとこは悪魔すら休暇を楽しんでるようだ」
こっちも午後のティータイムは現在進行形で満喫中、と茶化して言うと、呆れた口調で窘められた。
「…野暮用はどうなった?」
できれば、和やかな会話に終始したかったが…ダンテは敢えて近況を訊いた。
あの盗賊団が、どう行動を起こしていたのかも気になっていたからだ。
案の定、旅団は他のエクレシアにも魔の手を伸ばしており、さらに、エクレシアだけでなく…候補にあたる人物や関係者までターゲットにしていた。
あたかも、巣に迷い込んだ蝶を、おびき寄せようとする蜘蛛の如く…。
“ 調子に乗るなよ… ”
あの時、向かい側の建物から、旅団のリーダー…クロロが発した暗黙のメッセージ。
いずれ…あの男と一対一で戦わなければならない。
こういう時に限って、勘がよくなるのだ。
すると、リーシェが話題を変えると言いだしてきた。
―――嫌な予感がする。
それでも、ダンテは尋ねずにはいられなかった。
物事をうやむやにして…後から後悔するのが嫌だからだ。
『ダンテ―――もし、私が消えたらどうする?』
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